1
「なあ、兄ちゃん。世界が何でできてるのか知ってるか?世界がどうなっていてどうあるべきでどう動くべきか、おまえにわかるか?」
知らない。
俺には知りようがない。
せいぜい知ってることがあるとすれば、自分が何でできているかぐらいのものだ。
「私は知ってんだけどよぉ。案外面白くねえもんだよ。」
「この世界にはもう神はいないし、自由も権利も存在していないのさ。だから私はなってみることにしたんだ。神みたいなものに。」
目の前に我が物顔で居座る女性に面識はない。どこの誰ともしれないが、しかし今この瞬間の全てを彼女が握っていることを確信した。
それは目に見えたり、耳に聞こえたりする明確な根拠はなかったが、短くも長い特殊な人生の経験からのものだった。
「私はお前のことをお前よりも知っている。」
「だからさ、私はお前を殺しに来てやったんだ。今後の辛く長くなんの意味も持たないただ悲しいだけの人生に終止符を打ってやろう。」
「それができるのは、"私"しかいない。」
とても優しく暖かく慈悲に溢れた殺意を全身で感じる。俺に永遠の死を与えてくれるのはこの世界でこの人だけなのだと理解した。
同時に寒気と恐怖が全身に走った。
身体が内から震えだす。
俺の目は世界が崩壊し始めているのを捉える。
死の間際に立つ感覚を初めて知った。
「黙ってないでなんとか言えよ。」
あまりの殺意に声が出なかったのに気がついた。
何を言えばいいのかわからない。
この人が何を求めているのか検討もつかない。
しかし、何か言わなくては。
「あなたが俺と同じなら、あなたは死にたくならないんですか?」
こんな緊迫した状況と精神とは裏腹に自分でも信じられないほど冷静に言葉がでた。
「死にたく?なるわきゃねえ。お前と一緒にすんなよ。」
「私は一人じゃないからな。だから、いつまでもどこまでも続くのさ。」
「さあ、もういいだろ。お前のその力を、お前が背負う必要はないんだぜ。そいつは軌跡じゃねえし使命でさえない。」
「ただの"呪い"だ。捨てれる時に捨てちまえ。」
でもこの力は俺にとって大切なもの。
どんなに汚く、醜くかったとしても切っても切り離せない、自分を形成してきたもの。
「この力は俺にとっての奇跡なんだ。」
この力は俺に奇跡のような出会いをくれた。悲しみをくれた。喜びをくれた。苦しみをくれた。楽しみをくれた。
「そんなのただの幻だぜ。兄ちゃん。」
「それでも大事なんだ。これは俺に〇〇をくれたから。」
---------------------------------------