番外編 お約束のその後2
2話同時投稿です。ご注意ください。
「もう、お兄ちゃんってば、何で言わないのよ! 彼女いるんじゃない」
エルザは、あの矢文についていた地図を頼りに、エルマーを追いかけて、廃墟までやってきていた。
「だって、お約束では、人質にされた女の子って、色々大変なことになってるものじゃない? 着替えとか、色々持ってく必要があると思うのよね。もう、気が利かないんだから!」
エルザは、お約束に必要なグッズを色々取り揃えて、エルマーの後を追ってきていた。
そして、この廃墟にたどり着く。
剣戟が鳴り響く。
ドアの隙間からそっと覗くと、兄と、もうひとつの人影が、剣を切り結んでいるのが見えた。
が、剣の戦いを見たのは初めてで、兄が強いのかどうかは、エルザにはいまいちわからなかった。
兄が勝てるとは思えないので、やられる前に、人質だけでも助けて逃げないと。
「人質の彼女はどこかしら?」
見回すと、金髪碧眼の超かっこいい近衛騎士様がいた!
でも結構ボロボロだ。
あれ? 男の人?
でも、女って……。
「もしかして……」
エルザの頭の中は、エルマーが知ったら大憤慨しそうな結論に結びついてしまった。
気づかれないように、そっと、騎士様の方へ行く。
騎士様は、兄の戦いに注目してこちらに気づかない。
熱のこもった視線に、エルザは、やっぱり、と確信を深める。
兄がなかなか彼女を連れてこなかったのはこういうわけだったのだ。普通は、近衛騎士というだけでより取り見取りでかなりもてるはずなのに。
出世しすぎた兄が、忙しすぎてそんな暇すらなかったとは全く思わなかった。
わ、私は、そういうの、ふつうの子より、理解があると思うわ!
でも、こんな王子様みたいな人が、兄の何に惹かれたのか今一つわからないけど。
兄に視線を向けると、戦っている相手の男と目が合ってしまった。浅黒い肌の南国人だ。にやり、と笑うその笑いに背筋が凍る。
エルザが視線を逸らす前にその男は、懐から筒のようなものを取り出し口に当て、エルザに向けた。
風を切る音と共に、エルザに何かが迫る。
あれ、まずいんでは……
エルザが把握する前に、目の前が、白いものでおおわれた。
自分が抱きしめられて守られている、と気づいたのは、その白いものが、床にずるずると崩れ落ちてからだった。
「き、騎士様!」
騎士様はエルザをかばってくれたのだ。そして、その肩には、矢が刺さっていた。
苦し気に顔をしかめるその姿にドキリとする。
「お、お兄ちゃん、騎士様が!」
「おまえー!!」
「毒だよー。早く解毒剤飲ませないと、やばいかもっ……て、おいっちょっ!!」
兄の怒りの声が聞こえ、ガンガンガンっと剣戟の音がして、矢を放った男は即座に床に引き倒されていた。
「解毒剤を出せ!」
「なんだよ、ばかみてーにつえーじゃん、反則だろ。ほらよ。この毒、口から入った分には無害だから、吸い出してやった方が早く治るよー」
男は、剣を突きつけられ仰向けに転がったまま、エルマーに小袋を渡してきた。
「……今は、余裕がないから捕まえないが、お前、そんなに戦いたいんなら、影の騎士団へ入れ。それなら、好きなだけ相手してやる」
次の瞬間には、男の姿は消えていた。
エルマーは、騎士とエルザの方へ走ってきた。
騎士様は、脂汗を流してつらそうだ。
「お兄ちゃん、騎士様がかばってくれたの!」
「全く無茶して……妹をたすけてくれてありがとうございます」
「妹さん、だったんだ……じゃ、貸し借りなしね」
苦しげな顔で、微笑む騎士様の表情に、エルザは、また胸を撃ち抜かれてしまった。
その後、エルマーは、矢を抜き、騎士様のボタンを外し、一瞬ためらうと肩だけをだした。
そして、抱きしめるように抱えると、その肩の傷に口づけた。
毒を吸っては吐き出す兄の姿と、吸われるたびにうめき声をあげる騎士様。
その姿に、エルザは見てはいけないものを見てしまったような気がして口を押えた。
た、耽美……。
「お兄ちゃん、エルザは、理解がある妹です」
「はあ? ああ、助かるよ?」
気を失ってしまった騎士様をお姫様抱っこして抱える兄と一緒に、家へ帰る途中、エルザは、そう声をかけた。
◇◇◇◇◇◇
「き、騎士様。お加減はいかがですか? お水をどうぞ」
毒を受けたミケーネは、エルマーの実家のベッドを占領し、かいがいしいエルザの看護を受けていた。
エルマーは、そんな妹の様子を部屋の壁にもたれながら見守っている。
妹は、命を救われたミケーネに、端的に言ってメロメロだ。
ひょっとしてうちの家系は、あの顔に弱いのだろうか?
「妹ちゃん? ああ、助かるよ。ありがとう」
そして、ミケーネは、あの腹黒王子そっくりの王子様スマイルだ。
そりゃー、国民全員を虜にする王子様ですからね。マネするには最高の素材でしょうよ。
なぜか面白くない。
「エルザ、お前外に出てろ」
「はっ、お兄ちゃん、気が利かなくてごめんなさい!」
エルザが出ていくと、ベッドで体を起こしたミケーネは、途端に表情を崩す。
「ねえ、エルマー、妹ちゃん可愛いわねー。あんたに似なくてよかったわー。ほんと」
「何やってんすか、もう。王子の真似なんかして」
「あー、サービス?」
いつもの口調で話し出すミケーネに、エルマーは、やっと、落ち着きを取り戻した。
「今回は、正直寿命が縮みました」
「簡単に捕まったりして悪かったわ。また借りを作っちゃったし……ありがとう」
「今回の件ではっきりわかりました。俺、あなたに傷ついて欲しくないっす。あなたに何かあったらと思うと……今回はかなりきつかったっす」
「あっ、えっと、じゃあ、訓練付き合ってくれる?」
「いい加減にしてください。そういう意味じゃないの分かってるんでしょ?」
この期に及んでも必死にごまかそうとしているミケーネはうろたえてあっちこっち
きょろきょろし始める。
もう、逃がすつもりはない。
「もう、このまま一緒に暮らします。怪我が治るまで、フォローが必要でしょう」
「え? だって、それは……」
「責任、とりますから」
エルマーは、ベッドに腰を下ろすと、そのままミケーネの手を握った。
そのまま体を寄せて、真っ赤な顔をしたミケーネの耳元に顔を近づける。
「俺、あなたが好きです。このままここにいてください」
「「「きゃーっ」」」
途端に、扉の奥から覗いていた声に、二人は固まる。
エルザと近所の友人たちだ。
「愛ね、近衛騎士の禁断の愛!? お約束ね!」
「あの、お、お姉さまとお呼びした方がよいのかしら、それとも、お兄様かしら? あの、私、そういうの、理解がある方なので、大丈夫ですから!」
「私、絶対応援します!」
なんだか不穏な単語が混じっている。
エルマーはため息をついて、再び、ミケーネの耳元でささやいた。
「怪我が治ったら、覚悟しといてくださいね」
まずは妹の誤解をとくことから始めなければならない。
後日、とりあえず、ミケーネを満足いくまで着飾らせることを心に決めたエルマーだった。
エルマーとミケーネのその後のお話でした。
いかがでした?
とても楽しく書けたので、読んでくださる皆さまにも楽しんでいただけたらうれしいです。
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これでもかってぐらい、告白の名ゼリフ(と私が思っているもの)を詰め込みました。
特に8話(といいつつ週末投稿予定……すみません)




