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「」・・・ケイリッヒ語
『』・・・マレ語
で会話が進んでます。
ところがそんなある日、ぱたりとルークは、バステトの側に近づかなくなった。
バステトは、理由もわからず2週間、夢のように落ち着いた日々を送っていたが、ある親切な令嬢が、バステトに教えてくれた。
「王太子殿下は、最近ミケーネ子爵令嬢と親密なご様子ですのよ」
「しん……み、つ?」
親切な令嬢は、言葉が理解できなかったバステトを、二人の逢引き現場へ連れて行ってくれた。
令嬢は、王子のそばにべったり張り付いている。
これはいけるのでは?
バステトの国でも、王子が真実の愛に気づいて婚約破棄する物語は流行っている。
そろそろ婚約破棄の話を持ち掛けてもよいのではないかと、バステトは内心ガッツポーズをとった。
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しかし、その日の夕方。
数週間ぶりにルークに話しかけてみると、散々だった。
「彼女のことかい?天真爛漫な明るい令嬢だよ。でも、あまり君には近づいてほしくないな」
この頃になるとバステトも、ルークのゆったりした話し方なら、かなりケイリッヒの言葉が理解できるようになっていた。
『あんたの恋人になんか近づくわけないじゃない! 』
早く彼女を王太子妃にしなさいよ!なんなら私が協力してあげるわよ!
ルークはよく、周りの人が大勢いる場所で、ありもしないことをでっちあげる。
今回は、バステトも逆にそれを利用しようと、わざと人が大勢いる場所で話しかけた。
今日のケイリッヒ語の予習は完璧だ。
「わたし、こんやく、はきする! マレへ、かえる」
言った!言ってやった!
これで、バステトが婚約破棄したがっていることが皆に伝わった。
周りから白い目で見られることもなくなるはずだ。
「彼女はそんなんじゃないよ。嫉妬してるのかい?かわいい婚約者殿。
そうだね、彼女とは、距離をおくよ。
あまり近づきすぎると、君の怒りをかってしまいそうだ。」
は?その言い方だと、バステトが彼女との間を引き裂いているみたいではないか!
だいたいマレでは地位や身分のある男はハーレムを持つのも普通だ。
その程度のことで馬鹿馬鹿しい嫉妬などしたりしない。
『いやあ、ちょうどよかった。ありがとう。
君がもっとじたばたするかと思って放置してたけど、めんどくさくなってきたんだよね。
彼女は誤解される前にそろそろ切るよ。』
『めんどくさい??真実の愛は?』
あまりにもあまりな発言に、バステトは固まってしまった。
『嫉妬したの?黒猫ちゃん』
また人の話を聞いていない!
だいたいこの言いようはなんだ。いくらなんでも子爵令嬢がかわいそうだ。
王子の最低すぎる発言にあきれて何も言えない。
『残念だったね。僕の黒猫。君が期待するような婚約破棄なんてしないよ』
『そろそろ、ケイリッヒ語の勉強を再開しようか?
聞き取りはよくなってきたけれど、話す方は、今一つだね。
相手が必要じゃないか? 君もそろそろ困ってきているだろう?』
それを聞いて、バステトは辞書が手に入らなかったのも通訳がこないのも何もかも、この腹黒王子が手をまわしていたのだと理解した。
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その後、王子と子爵令嬢を引き裂く悪役皇女として、周囲の生徒からのバステトへの視線は一段と厳しくなった。
子爵令嬢とは会うのをやめないみたいだし、なおさらだ。
バステトとの前でのあれは、おそらく、ポーズだったんだろう。
バステトには、なんとなくルークの目的がわかってきた。
おそらくルークは、結婚までにバステトを徹底的に貶めて、彼女やマレの力を弱めておきたいのだろう。
この国におけるマレの影響力をでき得る限り削っておきたいのだ。
将来的には、バステトを使って、優位な立場でマレに何かをしかけるつもりなのだろう。
それで婚約破棄には、応じないのだ。
国のことを考えても絶対に結婚なんてするわけにはいかなかった。
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もう、正攻法ではだめだ。
ちゃんと作戦を考えなければならない。
この婚約は、今はまだ政治的な重要性はあまり高くなさそうなので、何か問題が起きればすぐにでも破棄が可能だろう。
今回、王子が「真実の愛」という問題をおこしてくれそうだったが、周囲はルークの味方だ。この程度問題にならないらしい。
仕方ない。背に腹は変えられない。
かなりいやだが、バステトが問題を起こす側に回ることに決めた。
幸い、今のバステトの評判は地に落ちている。何か起きれば、世論は婚約破棄にすぐ傾くだろう。
バステトは、作戦を考えてみた。
作戦1:バステトが「真実の愛」を見つける
→相手がいない。出会いから探さなければならない。没。
→相手がいたとしても、相手の男がかわいそうなことになる予感しかしない。さらに没。
作戦2:バステトが問題をおこす。
→その1)恥ずかしい成績をとって留年する。
→留年する前に退学して結婚させられそうだ。没。
→その2)犯罪を犯す
→薬。これはない。シャレにならない。没。
→夜遊び。どうやって厳重な警備を抜けて夜の街にいけるんだろうか? 没。
→傷害。これもない。没。
あれ、ちょっと待って!
これ、いけるんじゃない?
傷害と言っても、犯罪にならないレベルなら?
軽ーく、怪我もさせないレベルで、でも、私がひどい奴だって問題になるレベルならいいんじゃない?
例えば、池に落として相手をどろどろのぐちゃぐちゃにすれば、周りからも目立つし、ひどい奴だ、王太子妃にふさわしくないと思ってもらえる。
階段から落とすことも考えたけど、命にかかわりそうなので却下だ。
ルークは子爵令嬢を切ると言っていたけれど、二人はまだ親密のようだ。
ここで、実行に移せば、バステトが嫉妬に狂ってやらかしたと誰もが思うだろう。
嫉妬に狂って令嬢に手を出すような皇女を誰も皇太子妃にしたいだなんて思わない。
ということで、バステトは、子爵令嬢には悪いけれど、彼女をどろどろのぐちゃぐちゃのべちょべちょにするための作戦をたてた。
3話は、2日後に出したいです。