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吸血鬼一族の歴史旅行  作者: 如月麗羅
縄文時代
4/15

4話 抜歯して 絶望して そして……

とある冬の日、推定年齢18歳の俺に、父さんが話しかけてきた。


「文哉ー。お前今度抜歯(ばっし)するからww」


……へ?

“ばっし”?

え?何それ。新しいタイプの馬刺し?


てかあの父さんが笑いながら言うとか絶対ヤバいやつだよね。

母さん以外の人の不幸が大好きっていう、ヤバい人だ。ドSだ。

そんな父さんが、それはもうムカつく程きれいな笑顔を浮かべながら、心底楽しそうに言ってきたのだ。絶対俺が辛いやつじゃん。


「抜歯だよ、抜歯。歯を抜くと書いて抜歯」


…歯を抜くと書いて、抜歯………。


「つまり、この縄文時代の技術で歯を抜くってこと。分かった?」


父さんが、それは楽しそうにそう言った。


縄文時代の技術で、歯を抜く……?


……

…………

………………


「ぅえええぇぇーーーーーー!?」


その日、村中に俺の叫び声が響き渡りましたたとさ。



“抜歯”

なんか、縄文時代では、大人になった証として、歯を抜くらしい。勿論、健康な歯だ。

はぁ!?と思ったよ。

健康な歯を抜くなんてなんでそんなことするんだよ。縄文時代の技術で抜くとか、絶対痛いじゃん!

健康な歯だから、痛い思いしても何も良いことないし!

むしろ数日まともに口使えなくなるよね!?たぶん!

抜歯が大人になった証だって言うなら、俺は大人にならない!一生子供のままで良い!



だから、だから、やらない~~!!やりたくない~~!!

こっのドS!仮にも息子だぞ!?

それなのに、満面の笑みで断頭台に連れていくとは、なんと非情な!


あ!あんな所に千文ちゃんが!!


「ぢぶみぢゃーん!だずげでーー!!じぬ!俺死ぬーーーー!!」


声の限り叫べば、千文ちゃんがこっちに来てくれた!千文ちゃん!女神!尊い!


………ん?あれ?おかしいな。なんで千文ちゃんも父さんと一緒に俺を引っ張ってるんだ!


「文哉くん、大丈夫だよ。痛いけど、数日で痛み消えるからね。ちょっと我慢するだけだから。嫌がっても、結局はやるからね。時間が経てば経つほど、怖くなるだけだよ。早く終わらせちゃおうねー」


そ、そんな、千文ちゃん。

なんて事を言うんだ!父さんに何を言われたの!?

そして何!?その注射を嫌がる子供に対する看護師みたいな反応は!千文ちゃんのナース姿想像しちゃうじゃん!!


「はい、じゃあやろうねぇ」


えっ、ちょっ、まっ……

こっ、心の準備が!!


ぎゃあああぁぁぁーーーーーー!




し、死んだ………。

うー、口が痛いよー!千文ちゃーん、慰めてー。こんな時にこんなムカつくイケメン(父さん)の顔なんて見てたくないよー!!


しかーし!今は真夜中。千文ちゃんは今頃夢の中だ。

あ" ーー!千文ちゃんに会いたーい!!


「文哉、お前も一応大人になったね」


あまりの痛みに千文ちゃん不足に陥っていたら、父さんが声をかけてきた。

おい、一応ってなんだ。一応って。

俺はもう立派な大人になったんだ!

あんな痛い思いさせといて、やっぱりまだ大人じゃないとか、絶対許さないからな!


「お前もそろそろ、成長が止まるな」


……え?


父さんがしみじみと言った言葉に、俺は凍りついた。


成長が、、止まる。


そう、そうだよ。成長が止まるんだ。最初に言われたじゃないか。吸血鬼は、ある程度の年齢になったら成長が止まるって。

千文ちゃんと共に()()していくなんて、当たり前に考えていた。そんなのあり得ないのに。

だから、吸血鬼は血を吸うんだ。血を吸って、相手を吸血鬼にして、共に()()()()()生きていくんだ。


なら、それなら、俺はどうなる?千文ちゃんはどうなる?

千文ちゃんと一緒にいたいから、千文ちゃんを吸血鬼にする。そんなこと出来るわけない。

だって、千文ちゃんは俺を弟のように思ってるんだ。

千文ちゃんにも、将来好きな人が出来るんだろう。もしかしたら、もういるかもしれない。そんな千文ちゃんに、ただの弟の俺が吸血鬼になってなんて、言える訳がない。

好きな人よりずっと永く生きろなんて、自分は若いまま、好きな人が老いていくのを見ていろなんて、そんなこと絶対に言えない。

もし、少しの可能性にかけて言ってみたとして、それは千文ちゃんを悩ませるだけだ。

ずっと弟のように思ってたやつが自分を好きで、しかも人間じゃない、吸血鬼で。自分に吸血鬼になるように願ってくる。

千文ちゃんは、混乱するだろうし、悲しいだろうし、どうやって断れば良いのか、すっごくすっごく悩むと思う。

そんな思い、千文ちゃんにさせたくない。だから、絶対に言えない。

でも、もしかしたら化け物って恐がられるかもな。だって俺、人間じゃないんだし。そんなことになったら、すっごく辛いだろうな。

そもそも、吸血鬼なんて信じないか。縄文時代では、空想の中にもいないもんね。最大の告白を、千文ちゃんに冗談として笑われるのも、嫌だな。

そうだ。このまま成長が止まったら、将来絶対に不信に思われるよね。そうしたら、この村を出ていかないといけなかったりするのかな。千文ちゃんと一生、会えなくなるのかな。

それが、一番嫌かも。


もう、全部全部嫌だ。

どうして俺は、吸血鬼なんだ?



◇◇◇◇



それからも時間が進んでいく。

あの日から、俺は千文ちゃんとどう接すれば良いのか分からなくなった。どうしても、これからのことを考えてしまう。

それに、千文ちゃんをこれ以上好きになるのが怖かった。好きになればなる程、辛くなる。


どんどんどんどん、俺は千文ちゃんから遠ざかっていった。

最初は話しかけてくれていた千文ちゃんも、だんだん話しかけなくなり、だんだん近付かなくなり、だんだんこっちを見なくなった。

それでも時々強い視線を感じてそっちを見れば、千文ちゃんが慌てて視線をそらしている。

それを見て、あり得ないくらい悲しくなって、それなのに嬉しくも感じてしまって。最低だなって、そのたびに思う。


春の山菜採り

自分でも、何が何か分かるようになってきて、ゼンマイだって、たくさん採れて、それは全部千文ちゃんのおかげなのに……山菜を採る俺の横に、千文ちゃんはいない


夏の漁

いつも、千文ちゃんのためにたくさんの魚を獲ってた。それを見て

たくさん褒めてくれる千文ちゃんも、俺の獲ったタイを、俺の横で美味しそうに食べてくれる千文ちゃんも、全部全部好きだったのに。今でも好きなのに。あ、愛して、いるのに。今、そんな千文ちゃんは遠くにいる


秋の食材採り

キノコ、ドングリ。いろんな食べ物を、無心で採っていく。千文ちゃんの作った縄文土器で、俺の採ったらドングリを煮たのが大好きだったのに、今は、千文ちゃんが作った土器がどれかすら、知れる関係じゃない。知る資格はない


冬の狩り

1人で、イノシシの群れを狩る。そうしてれば、少しだけ気が紛れる。去年は、この季節に抜歯をした。いつの間にか、あの日から一年が経っていた。千文ちゃんのいない時間はつまらなく、時が経つのが遅く感じた。でも、思い返して全く思い出のない一年は、短かったようにも感じる


千文ちゃんは一年中、村で土器や石器を作ってて、同じ村にいるのに、関わることはない。



狩りから帰って家に入る。

そして並んでいる2体の土偶をぼんやりと見つめる。1つはすっごい不恰好で、もう1つはすごい上手い。教科書に載ってそうだ。不恰好な方が俺が作ったやつで、上手い方はもちろん千文ちゃんがつくったやつ。二人で初めて作ったとき、こっそり持ってきたやつだ。今では千文ちゃんとの繋がりはこれくらい。だから毎日毎日、暇な時はこれを見つめてる。我ながらキモいと思う。


土偶は、魔よけとか、豊作。子孫が栄えることとか、そんなことを祈るのに使われる。祈ったから叶うとは思ってない。だって前世の俺は、毎日背が高くなりますようにって願ってたのに、結局高くならなかったし。それが今世では、簡単に叶った。

魔よけ、豊作。イケメン、高身長。

そんなのもう祈るつもりはない。祈って叶うなんて思ってない。でも、もし、、もし祈ったことが叶うなら、俺は、人間になりたいっ。 

耐えきれず、涙がこぼれた。

でもいくら泣いたって、俺が吸血鬼であることは、絶対に変わらない。



数日後


父さんに言われて、貝塚に食べ物の残りかすを捨てにいった。

貝塚は海岸にあって、視線をあげればずっと遠くまで見渡せる。

昔は海を見て、水着を着た千文ちゃんを想像したなぁ。思わずふっと笑みがもれる。


「……あっ」

「っ!」


声がして、勢い良く振り向いた。そこには思った通り、千文ちゃんがいて……。


ダッ


思わず、駆け出した。

一年かけて、一生懸命少しずつ抑え込んできた気持ちが、また溢れだしそうだったから。それが、ひたすら怖かった。久しぶりに関われた喜びよりも、恐怖が勝った。



夕方

狩りから帰れば、母さんが青ざめた顔でかけよってきた。


「ふっ、文哉!!……っ、千文っ、ちゃんがっ!」


その名を聞いた瞬間、心臓がどくん大きな音をたてた。

思わず駆け出す。

人が集まっている場所を見つけ、その中心にムリヤリ飛び込めば―



そこでは、千文ちゃんが眠っていた。

でも何故かその顔は青白くて、腹の部分が赤黒くなっている。


「千文、ちゃん……?」


なんで、そんな所で寝てるんだ?

それにまだ、夕方だよ?

顔、青白いな。具合でも悪いのか?心配だな。

服、その腹、どうしたんだ?きっ、木の実でも、潰しちゃったのか?そう、だよな。そんなんだよなっ。


「文哉…千文ちゃんは「ちっ、違う!そんなの、絶対に違う!!」


後ろから、母さんが何か言おうとする声が聞こえ、必死で遮る。

違うっ、違うっ、ちがうっ!絶対に違う!!

千文ちゃんが、、死んだ、、そんなはずないんだ!!そんなのあり得ない!認めない!違う違う違う!!


また、駆け出した。


でも、頭の冷静な部分は分かってて、自分を罵っていた。

俺は、また、呑気に楽観視していた。

ずっとずっと未来。俺だけ見た目が変わらず、千文ちゃんと離れなければいけなくなる未来。その時まで、千文ちゃんが生きていると、当たり前に考えていた。そんなの、全然当たり前じゃないのに。俺は、いつまでたっても、バカで呑気だ。


勝手に悩んで、勝手に避けて、千文ちゃんを悲しませて。


こうなるならもっと、千文ちゃんといれば良かった。避けるなんて、しなければ良かった。

いや、こうならないとしても、避けるなんてバカだった。なんの意味もない事だった。


千文ちゃんっ、千文ちゃんっ、千文ちゃん!!


―もう、会えないのか?


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