透明な血
透明な血と、赤い血。
どっちが痛いですか——と、善良な貴方に問いたい。
まるで終わりのない退屈な物語を見ているようだった。
自分の腕から、足から、顔から、真っ赤な血が流れ、どこかへ行くのを、朦朧とした意識の中で、他人事のように感じてしまっていた。
だって、それ以上に、実体のない透明な血が、僕の体から溢れんばかりに流れているから。
僕を嬲っていた同級生たちは、いつの間にか何処かへ行っていて、夕日の当たらない校舎裏には、カラスたちのウザったい鳴き声が響いていた。
そろそろ帰らなきゃ、両親に何と言われるか分からない。
——傷の言い訳はどうしよう。
なんて、この期に及んでもそんなくだらないことに頭を悩ませている僕の体から、止まり始めた赤い血の代わりに、また透明な血が流れた。
◇
まるで終わりのない退屈な物語を見ているようだった。
僕は真っ暗な部屋の中でおよそ六インチばかりの四角くて光る凶器を、やけに真剣なまなざしで見つめていた。
やめればいいのに——そう、心では理解している筈なのに、僕はその愚かな自傷行為を止めることはできなかった。
その小さな凶器には、顔だけ隠された人物の嬲られた後を撮った写真が、数十枚も並んでいた。
僕は、この人物が誰であるかを知っている。
そして、この人物の痛みも知っている。
ふと、『57View』と言う小さな文字が見えた。
——ああ、そっか。
その数字以上に、その写真から流れる赤い血以上に、僕の体からは透明な血がとめどなく溢れた。
◇
まるで終わりのない退屈な物語を見ているようだった。
目の前には、太った大人がいて、うんうんと時折頷きながら、憐れむような、蔑むような、どちらともつかない目でこちらを見ていた。
「あなたの気持ちは十分によく理解できます。 ですが、証拠がないからには、こちらとしてもどうすることもできません。 そもそも、あなたの日ごろの態度は、あまり良い方ではないと先生方から聞いています。 自分にも問題が無かったか、もう一度見つめなおしてはいかがでしょう」
——はぁ。
目の前の大人が、チラチラと面倒くさそうに腕時計を気にしているのを、僕は、どこか他人事のように見ていた。
そして、透明な血が、静かに、そして確実に、僕の体から失われていく。
◇
まるで終わりのない退屈な物語を見ているようだった。
大人ぶった質の悪い子供たちが通う鉄筋コンクリート製の監獄に、僕は今日も足を運ぶ。
廊下を歩けば、僕の前から人がいなくなり、あいつらは遠巻きから心配するようなフリをした目で見てくる。
傍観者なんて、加害者と何も変わらないのに、あいつらは自分のお手手を真っ白に保つことに精いっぱいだ。
手だけが真っ白でも、その他は真っ黒に汚れているのを、僕は知っている。
——今日もか。
でも、そんな僕にわざわざ話しかけてくる奴らがいる。
そして今日も、僕の前に立っているアイツらは、プラスチック製のおもちゃを見るかのように、嬉々とした目をしていた。
また、透明な血が流れる。
◇
まるで終わりのない退屈な物語を見ているようだった。
自分の腕から、足から、顔から、真っ赤な血が流れ、どこかへ行くのを、朦朧とした意識の中で、他人事のように感じてしまう。
だって、それ以上に、実体のない透明な血が、僕の体から溢れんばかりに流れているから。
僕を嬲っていた同級生たちは、いつの間にか何処かへ行っていて、夕日の当たらない校舎裏には、カラスたちのウザったい鳴き声が響いていた。
そろそろ帰らなきゃ、両親に何と言われるか分からない。
——傷の言い訳はどうしよう。
なんて、この期に及んでもそんなくだらないことに頭を悩ませている僕の体から、止まり始めた赤い血の代わりに、また透明な血が流れた。
◇
まるで終わりのない退屈な物語を見ているようだった。
自分の腕から、足から、顔から、真っ赤な血が流れ、どこかへ行くのを、朦朧とした意識の中で、他人事のように感じてしまう。
だって、それ以上に、実体のない透明な血が、僕の体から溢れんばかりに流れているから。
僕を嬲っていた同級生たちは、いつの間にか何処かへ行っていて、夕日の当たらない校舎裏には、カラスたちのウザったい鳴き声が響いていた。
そろそろ帰らなきゃ、両親に何と言われるか分からない。
——傷の言い訳はどうしよう。
なんて、この期に及んでもそんなくだらないことに頭を悩ませている僕の体から、止まり始めた赤い血の代わりに、また透明な血が流れた。
◇
まるで終わりのない退屈な物語を見ているようだった。
自分の腕から、足から、顔から、真っ赤な血が流れ、どこかへ行くのを、朦朧とした意識の中で、他人事のように感じてしまう。
だって、それ以上に、実体のない透明な血が、僕の体から溢れんばかりに流れているから。
僕を嬲っていた同級生たちは、いつの間にか何処かへ行っていて、夕日の当たらない校舎裏には、カラスたちのウザったい鳴き声が響いていた。
そろそろ帰らなきゃ、両親に何と言われるか分からない。
——傷の言い訳はどうしよう。
なんて、この期に及んでもそんなくだらないことに頭を悩ませている僕の体から、止まり始めた赤い血の代わりに、また透明な血が流れた。
◇
まるで、終わりのない残酷な物語の終わりを見ているようだった。
朦朧とした意識の中で、僕は透明な水が、赤い血で染まっていくのを、どこか他人事のように眺めていた。
左手に握りしめていた細長い凶器が、遂に僕の手から滑り落ちて、甲高い音が響きわたる。
——やっとだよ。
これ以降、僕の体から赤い血が流れることは無くなった。
◇
『あなたたちは、自分たちがやってしまったことに対して反省していますか?』
『はい』
『そうですか。 では、あなたたちのその言葉を信頼して、更生の機会を無駄にしないよう、私たちは願っています』
◇
『このサイト知ってる?』
『なんだよそのサイト』
『最近どっかであったイジメの写真がたくさん掲載されてるサイトなんだよ』
『へえ、なんかリアリティあってすげぇな』
『この写真なんか……うわっ、痛そう』
『俺らじゃなくてよかったな』
『それな』
◇
『校長先生、貴方は今回の事件を把握していたんでしょうか』
『……すみません、生徒たちの行動に対して真剣に注目し、イジメなどが無いように最善を尽くしていましたが、今回のようなこととなってしまい、不徳の致すところで御座います。 今回の被害を受けた生徒は、非常に真面目で、明るく、模範的な生徒でしたので、今回のようなことが起きるとは、考えてもおりませんでしたし、相談を受けたことも御座いませんでした……』
◇
『B組のあの人、自殺だって』
『ほら、だって、アイツらがしつこくイジメてたでしょ』
『アイツらも酷いことするよね』
『なんで誰も止めなかったんだろ』
『ねー』
◇
透明な血は、永遠に流れ続ける。
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