末っ子の王子
朝から花束を持ったデイルが訪ねてきた。
「ミユウ、朝食の誘いに来た」
ニッコリと笑みを浮かべ、美優に花束を渡す。
「ありがとうございます。お花を貰うなんてうれしいです」
イケメンの年下の王子に花を貰ったら、誰だって頬を染めるだろう。
朝起きたら、王太子とルティンからの花束が届いていたが、直接手渡されると、嬉しいのと恥ずかしいのとで美優は頬を真っ赤に染める。
食堂に行くと、大きなテーブルに、デイルと美優の二人だけだ。
「他の方は?」
美優は朝から、王家の食堂と緊張していただけに、他の人がいなくて少しほっとしていた。
「王も王太子もすでに執務に入っている。ルティン兄上は魔獣討伐で留守にしていたので軍に行っている。王妃殿下は昨夜も夜会だったので、起きられるのは昼前だろう。いつものことだよ」
優雅な手つきで食事をすすめるデイル。
「お花のお礼を言いたかったのですが、今度にします」
「え?」
デイルが、嘘だろう、とばかりに美優を見る。
「なにか?」
美優もデイルが笑みを崩したのに気が付いた。
「もしかして、可哀そうとか、寂しいわねとか、言われると思いました?」
美優の言葉は図星だったらしく、デイルの手がピクンと動く。
それでご夫人やご令嬢の関心を引いていたのだろう。
「18歳でしょ? しかも侍従が身の回りの世話をしてくれて、寂しいなんて5歳児だって言わないわよ」
さすがに、王子様に言い過ぎたかと美優はデイルを見る。
手にしたフォークに力が入っている、緊張しているのは仕方ない。
「強敵ですね、僕を甘やかしてくれるご令嬢が多いのに」
デイルの笑みが張り付いたように見えてくる。
「よかったわね」
末っ子の王子様だもんね、美優お姉さんわかるよ。
美優は普通の20歳の大学生だが、デイルから見ると貴族の令嬢や夫人に比べて見劣りする。
幼く見えるのだ。
その美優が年上ぶるのが腹立たしい。
だが、ワンを従属させれば王座さえ手に入るかもしれない。
そのワンが欲しいなら、美優を手に入れるのが1番の近道なのだ。
こんな女、普通なら目もむけないのに。デイルは心の中で美優を蔑む。
「ミユウは新鮮だな」
絶対にこの女を、僕の足元に屈せてやる。
「王太子殿下は、もうすでにお仕事をされているのですね」
美優が、もうデイルの事は関心のないように王太子の話をするのが、デイルを苛立たせる。
「ねぇ、ミユウ。僕は昨日言ったことは本気だよ」
ポン、と美優が真っ赤になる。
「私はここの生活に慣れるのに精いっぱいで、他に目を向ける余裕はないの」
ごめんなさい、と断りの言葉を続けようとした美優をデイルが言葉を被せる。
「じゃ僕が、この国の事を教えてあげるよ。
だから、明日の披露会のエスコートはさせて欲しいな」
「ワンと一緒に出席するので、エスコートはいらないと思うの」
王太子とルティンの花束にも、エスコートをしたいとカードが添えられていた。
考える時間もないし、美優は面倒に思ってエスコートなしと決めた。
「女性が一人で出席するのは、良く思われないよ」
デイルがさも心配そうに言うが、美優は考えを変えない。
「この国の作法に添ってないかもしれませんが、私自身が作法を身に付けていないのでエスコートしてくださる方に迷惑をかけると思うの」
「だからこそ、エスコートが必要だよ」
「心配してくれてありがとうございます」
御馳走様でした、と美優が席を立つ。
後を追おうとしたデイルに、美優の足元を歩くワンが振り返る。まるで威嚇するかのように。
席に座り直したデイルは、息を深く吐く。
あの女に無理強いは出来ない、ワンの機嫌を損ねるわけにはいかないのだ。
今のデイルの頭の中は、美優の事でいっぱいだ。それは本人でさえ気が付いていない。