美優、悪女を目指したい
美優は己に言い聞かせる、これは先手必勝。
権力が欲しいと思ったばかりだ、王妃=権力。
王という他力本願だけど、官僚になって成り上がるなんてのより早いし、現実的だ。
幸いここは二人きり、美優がチャンスとフランシスにしなだれかかる。
可愛い女を演じて、フランシスを意のままに操る、いいかも。
「フランシス様」
「様!?様?」
フランシスが慌てて、美優を抱き上げる。
「変な物食べたのか?どこが痛い?」
ガン!
抱き上げられたまま美優が、フランシスに頭突きをした。
「イタタ・・」
目に涙をためているのは美優である。
「すぐに医者のとこに行こう、転移陣ですぐに王宮に戻るから」
フランシスの額も赤くなっているが、美優を抱きかかえたままびくともしない。
「待って、待って。王宮には行かない」
フランシスの胸元をぐっと引っ張り、美優がフランシスを止めようとする。
「変な物食べたとか言うから、腹がたったの。
私が令嬢ぽく言うのは、そんなに変なの?」
フランシスは安心したように息を吐き、ソファーに美優を置くと額に手を当てる。
「痛かったな、赤くなっている。そうだな、俺が悪かった。どうして令嬢のマネなど?」
美優の目が泳いで、都合の悪い事を隠そうとしているとよく分かるのだが、フランシスは気づかない振りをする。
「王妃になるなら、そういうのが必要になるのだと思って。
カレンディアみたいになろうとしたの」
絶対に嘘だ、フランシスは確信する。なにか下心があったに違いない。
それに、美優がカレンディアのようになるには、100年かけても無理だ。
「ミユウは、今のままがミユウらしくっていいと思うぞ」
嘘を言ったら、その嘘を守る為に嘘を重ねる。すぐにバレるのに、とフランシスは面白くなってきている。
「それじゃフランシスが恥かくでしょ?
だから、王妃様教育とか頑張ろうって」
「いい心がけだな。令嬢のマナーやダンス、楽しみだな。ミユウには時間がないから厳しい先生でいいな。
鞭は使わないように言っておくが、上手く出来ない時は仕方ないな」
嘘を守る為に次はどうするのだろう、とフランシスは反応を楽しんでいる。
この世界の教育を知らない美優は、フランシスの脅しを鵜呑みである。
「体罰はダメ、ちょっと無理だって」
「俺の為に頑張ってくれるんだろう?
式は急いでいる。
ウズデロイドとマルセウスが協力したのは、巫女が両国の懸け橋になるという前提だからな。
ウズデロイド側は赤い花の情報を提供した、マルセウス側は巫女を出した、それぞれが有利に条約を結ぶべきだと声が大きく、それが過ぎれば戦争になる」
やっと赤い花の不安がなくなったばかりなのに、と美優が思うのは間違いではない。
「どのみちウズデロイドとマルセウスはぶつかる予定だった。
俺は、マルセウスに侵攻する準備をしてたからな。
あの赤い花は、結果的に言うと、戦争を避けるアイテムになった。
マルセウスは巫女という人質を出し、ウズデロイドから魔術の技術提供を受ける。
そしてウズデロイドでは、その巫女を勇者として歓迎される今しかないのだ。
後宮は解散させたから、心配いらないぞ」
様子を見に来たカレンディアがお茶のお代わりと菓子を置いて、出て行くのを見送って美優は口を開く。
「それ、ウズデロイドに利があるの?」
「魔術技術といっても一部を提供するだけだし、マルセウスの巫女を得るんだ、それは当然だろう。
俺はミユウが欲しいからな」
ここよ、ここで男心をくすぐる優しい言葉をかけるのよ。頑張れ美優。
自分で思いながらも、何をすればいいのか分からない。
それどころか、口から出るのは反対の言葉。
「結局は私の意志なんてどこにもないじゃない。
女の子が思いのままになるなんて、思わないでね!」
まぎれもなく本心だが、フランシスを傀儡にする計画はとん挫する。
王を手玉に取る悪女のような王妃、道は遠い。
「ミユウの意志はあったろう?
あの花を殲滅するのは、ミユウの意志だったはずだ。
結果、たくさんの人間にミユウの血は力があると知られた。
俺はもちろんだが、あのマルセウスの王太子もミユウを守ることを優先した」
「それでも!」
言葉を続けようとした美優の口に、フランシスがクッキーを入れる。
咄嗟に飲み込みそうになって咀嚼をすると、フランシスと目が合う。
「野菜と一緒に持って来たんだ。
街で人気の店らしい、気に入ったか?」
うんうん、と美優が頷くと、そっと赤くなった額に手が添えられる。
「ミユウの意志は尊重したいが、今回は納得してくれないか?」
「クッキーで懐柔されるもんか!
私の結婚なんだぞー!」
「俺の結婚でもあるな」
チュッと額にキスされて美優がドン、とフランシスを突き飛ばす。
真っ赤な美優を見て、フランシスが口を押える。
「なんだ、その可愛い反応は」
式まで手が出せないなんて、と愚痴る。
「私のこと、どこがいいの?
異世界の人間で珍しいから?」
大事にしてくれているのは分かる。
でもフランシスなら、それこそ美女だろうが才女だろうが選びたい放題だろう。
「どこがいいか、分からないな。
ただ一緒にいたいと思うんだ」
「あ、ありがとう」
自分で聞いたくせに、聞かなきゃよかったと思う美優。
しかも、美優の髪をもてあそびながら言うなんて反則だ、恥ずかしすぎる。




