第2ラウンド アーノルド
馬のひづめの音が聞こえ、小屋に近づいて来ているのはマルセウスの人間だとわかる。
「兄上だ」
打ちひしがれていたはずのルティンが立ち上がる。
「僕は教えてないから」
自分は無実だと言いたいのだろう。
「ここに戻ってくれば、すぐに知られると分かってましたよ」
美優が言いながら、カレンディアの手を取る。
「きっとカレンディアを追いかけて来たんだ。
カレンディアはどうしたい?」
「ミユウ様と一緒にいたいです」
考えることなく、カレンディアが答える。
「カレンディア、私考えていることがあるの。
さっきカレンディアが、娘の結婚は父親が決めるって、それは悲しいと思った」
「ミユウ様、娘の幸せを願って決める父親も多いのです。
ただし、家の繁栄に貢献すればですが」
「女の子は道具ではない!」
美優もここは違う世界と分かっている。
「今はそうでも、女の子が自分で選べる世界になるように始めたい」
「そんなこと、考えたことなかった」
カレンディアの声は震え、瞳は大きく見開いている。
近くで聞いているルティンも驚いている。
ワンは、美優の記憶を与えられているので理解が早い。
「ご主人の世界では、それが当たり前なのです」
ワンを振り返るカレンディア。
「これから始められるでしょうか?
次の世代の私と同じ女の子の為に」
「すぐには無理だけど、始めないと始まらない。
まずは権力が欲しいわね」
親指立てて笑う美優、頷くカレンディア。
それは美しい笑顔のカレンディアだった。
美優だけでなく、ルティンまでもが魅入るほどの。
「仰せのままに。
権力を手に入れてみせますわ」
それは、小屋に入ってきたアーノルドに見えるように、聞こえるように。
カレンディアは立ち上がり、アーノルドに微笑む。
「王太子殿下、聞こえまして?」
カレンディアが右手を差し出すと、アーノルドはうやうやしくその指に接吻を落とす。
それは、長い婚約の間に何度も繰り返された事なのに、今は特別な儀式のようで。
カレンディアにかけられた魅了がなくなっても、アーノルドには深い想いが残っている。
「カレンディア」
じっと見つめるアーノルドに、カレンディアは少しうつむく。
顔を赤くすると、アーノルドを振り切り美優に飛びつく。
「ダメですわ、ミユウ様。
無理、私には出来ません」
「巫女!!」
アーノルドの睨みに震え上がったのは美優である。
「今すぐカレンディアを離せ!」
「ちがう、」
抱きついて来たのはカレンディアで、美優が抱いているのではない。だが、言葉か続かない。
それほど、アーノルドが憎しげに美優を睨んでいる。
とっても怖い、それが今の美優である。蛇に睨まれたカエルだ。
ワンがアーノルドの視線を遮るように、美優とアーノルドの間に入ると、ほっと美優が息を吐く。
アーノルドを手玉に取ろうとして、スキル不足でカレンディアは失敗したが、かえってアーノルドを煽ってしまったようだ。
それは、カレンディアが美優を頼ったことで、美優がアーノルドからカレンディアを奪うライバルと認定されてしまった。
「ワン、カレンディアは権力が欲しいと言っていたので間違いないか?
そのことで話す必要があるんだ」
アーノルドもワンには、敬意を払い強くはでない。
「悪かった、巫女が悪いのではない」
美優とカレンディアを引き離したいのは分かりきっているが、王太子としてそれを抑える。
「巫女、カレンディアと話がしたい。こちらに渡してくれないか?」
やっとカレンディアが美優の肩から顔をあげ、振り返りアーノルドを見る。
「私の心を操ろうとしたアーノルド様が怖いのです。
初めてお会いした時のトキメキも、今ではわからないのです。」
カレンディアの頬に涙が流れる。
「大好きでしたの」
小さい声だが、アーノルドに届くには十分だった。
「カレンディア。
君が君であってこそ美しいのに、僕は愚かだった」
アーノルドがカレンディアに見惚れている。
カレンディアが意図してしたのかは分からないが、美優はカレンディア凄いと心の中で賛辞を送っていた。
「カレンディア、殿下と話してきたら?」
美優は、隣の部屋を指差す。
カレンディアは美優から身体を離し、ワンに礼を言う。
「ワン、ありがとう。
もう大丈夫よ」
アーノルドの差し出した手にカレンディアの手が重ねられ、二人は隣の部屋に消えた。
バタン!!
扉が大きな音で開かれると、カレンディアが出て来た。
「ミユウ様!」
ワンとルティンとお茶をしていた美優に、カレンディアが駆け寄る。
「王太子殿下が、私と婚約解消して、ミユウ様と婚約というのは、父と取引してたのですわ」
カレンディアが手を振り回しているのは、王太子に抱きしめられないようにしているらしい。
「私は、側妃としてすでに召し上げられていたのです!」
「カレンディア、だから違うんだ」
バシバシとカレンディアが手を叩いて、アーノルドを振り払うがダメージにはなっていない。
「ウェディングドレスは夢だったのに」
「もちろんだとも、僕が見たい。巫女の婚約は建前だった、王妃など務まらないと分かっていた」
「そんなものになったら、ミユウ様の側にいられないじゃないですか!」
「巫女に仕えていいから、僕と結婚して」
アーノルドは、カレンディアを抱きしめる。
「離して!!」
アーノルドに抱きかかえられて、カレンディアが部屋に引きずり込まれ、部屋の扉が閉められる。
「あーあ」
言葉がもれたのは、美優かルティンか。
「あんな兄上は初めて見た」
ルティンが苦笑いする。
「兄上も人間だったんだ、って思った」
「カレンディアの要求が全て通ったように聞こえたね」
美優が笑うと、ワンも相槌をうつ。




