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最初の対戦はルティン

「まずは家に戻りたい。

ワン、お願いできる?」

美優の言う家は、狩猟小屋の事だ。

増築と改築を重ねて、小屋というより小さな館になっている。

「もちろんだ、ご主人。ルティンも乗るがいい」

ワンは再度神獣の姿に変えると、美優たちを背に乗せ、森を駆け抜けていく。




森の中にひっそりと(たたず)む小屋の周りには、雑草が伸びていた。

扉を開け、小屋に足を踏み入れると、懐かしいと感じる。

長らく留守にしていたので、保存食とお茶や乾物があるだけだ。

カレンディアがお湯を沸かし、お茶を淹れる。

「やっぱり、ここが落ち着くわね」

「そうですね、庭の雑草が伸びているのが気になりますけど」

美優とカレンディアが笑い合う。

窓から見える庭には、美優とカレンディアが植えた花が咲いている。


カチャン、とルティンの前にカップが置かれる。

「どうぞ殿下、疲れがとれますわ」

カレンディアがお茶をすすめるも、ルティンはカップに手を伸ばさない。


「僕ではだめなのか?

誰より大事にする」

ルティンの言葉が、美優を苛立たせる。

誰よりって、誰と比べているの?!

「どの女性よりもってこと?第1夫人とか、第2夫人ってこと?

奥さんが何人もいるなんて受け入れられない」

「違う、どの男よりもってことだ」


にこっ、と美優が笑顔を向ける。

「口ではそういうけど、今更よ」

美味しい、とお茶を飲みながら他人事のように美優が言う。

「すぐ近くに転移陣があるのに、ルティンはほとんどここには来なかったわよね。

フランシスは、ワンが山で獣を狩って肉があるだろうからって、野菜を持って毎日来るのよ。王様なのに」

それはニナがルティンについて早々に王都にもどったので、ルティンに報告は来ていなかった。

外で護衛させている兵士には、小屋の中で転移しているフランシスの存在はわからない。

クスクスと笑う美優に見惚れる。


魅了が無くなったと知って、毎朝小屋の様子を見に行った。好かれている自信がなくなると不安で仕方なかった。

今頃、こんなことするなら、もっと頻繁に会いに行けばよかったと何度も思った。

「僕は美優がいいんだ」

初めて会った時に好感を抱いたと言っていたのに、今は違うのか?

聞きたい言葉は、ルティンの胸の中で止まる。


「私が欲しいのはルティンじゃない」

美優が首を横に振って、ごめんね、と言う。


「王妃なんて、負担が大きいし、ミユウにはこの世界の知識はないだろう?

王妃教育って知識だけではなく、マナーや人心掌握まで覚える事は大変だよ。

僕にしとけよ」

マルセウスの王子は、自分たちの容姿がいいことが分かっている。

それを有効利用することに戸惑いはない。

ルティンは笑みを浮かべ、優しい声で語りかける。

「ミユウが大事なんだ」


思わずドッキリしてしまうほど綺麗な顔である。

美優だって女の子だ、ルティンの顔は好きだ。でも、魅了をかけたから、釣った魚にエサをやらない、とばかりとする態度に好意は減っていった。

人の心は変わる。だからこそ、魅了をかけるのかもしれない。

「ルティン」

ルティンに名前を呼ばれても嬉しいとは思えない。

「魔術を使って心を操ろうとした人は信じられない。

キライ、って言えば諦めるの?」


美優とルティンの視線が絡まる。

ルティンは、今まで否定されたことなどないのだろう。

「魅了を使いたいと思ったのは、ミユウが初めてなんだ。それほど好きなんだ」


「ごめん」


「そうか」

ルティンが下を向く。

もう美優から表情は見えない。


ルティンは、いつも助けてくれた。

決して傷つけたいとは思わないけど、魅了を使ったことは許せない。



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