最後の戦いの始まり
ワンが最高速度で駆ければ、軍隊も追いつけない。
軽々と王都を駆け抜け、森に入ると人間の姿に変えた。神獣の姿のままでは追いかけてください、と言わんばかりに目立つ。
「ご主人」
ワンが北に行くか、南に行くかと聞いてくる。
美優は手ごろな岩を見つけると、そこに腰かけた。
「このまま逃げ続けるのかな?
そして追手を恐れて転々として暮らすの?」
お金だって必要だ。
分かっているのに、勝手に決められていくのが我慢ならなかった。
ルティンだって第2王子なのに、王太子を裏切ってここにいるのだ。例え魅了の反動とはいえ、好きでいてくれる。
「ルティン」
「なに?」
呼びかけられて、ルティンが近づいて来る。ワンとこれからのルートを検討していたらしい。
「ありがとう」
美優の表情が泣きそうに歪んでいく。
「どういうことだ!?」
ルティンが美優に詰め寄る。
「あの時」
美優が言葉を止めるのをルティンは聞いている。
「初めて会った時、なんて綺麗な人だろう、王子様みたい、って本当の王子様だったんだけど思ったの。
颯爽と助けてくれて、好きにならないはずないよね、女の子だもん。
一緒に旅をして、楽しかった。
魔獣を作っているところがあるなんて驚くばかりで、壊したことで少しはマルセウスに貢献できたかな、とか思った」
「何が言いたい?」
美優が別れを告げようとしている、それだけはルティンにも分かる。
美優が座る岩の横になる木にもたれかかって、深く息を吐く。
強い陽も葉が遮り、穏やかな日差しになっている。
ワンとカレンディアは美優の後ろに控えるように立っている。
気になった、可愛いと思った。
強い魅了をかけるには代償がいると知っていても、躊躇いはなかった。
魅了をかけたことで、美優を手に入れたと思った。
王子の執務を優先することは当然のことだった。美優は待っていてくれるはずだから。
「僕はミユウが好きだから、好きになって欲しかった。だから魅了をかけたんだ」
「ルティンの好きはたくさんあるんだね。ニナにも魅了をかけたの?」
「どういうことだ?」
「見たのよ、二人で会っているとこ。暗闇の中でニナの頬に手を添えて何をしてたの?」
狩猟小屋にルティンが来た時のことだ。見送りにニナが行ったのを美優は見ていた。つらくて、その後は見ずに逃げ戻った。
美優にとっては衝撃なことでも、ルティンにとってはどうでもいい事だった。
そんなことしたか、ぐらいにしか思っていない。
「誤解だ。何もしていない、指示をだしていただけだ」
「今ならわかる、あの時はルティンを好きだからショックを受けたんだなって。
そして、魅了をかけているから何をしても許されると思われていたんだと」
美優の話を、カレンディアは泣きそうに聞いている。
何をされても許される、そうなのだろう。
一方的に婚約解消されても、アーノルドの気持ちが欲しくって、美優が憎くって凶行に及んでしまった。
アーノルドから捨てられるなら、死んでしまいたかった。
巫女を殺そうとするなんて、家の取り潰しになるというのに、あの時は・・・
「誤解だ!
好きなのはミユウ一人だ!」
ルティンは凭れていた木から身体を起こす。
「でも、ニナを利用したでしょ?」




