逃げ道
根性をだした美優に動じることなく、ルティンは溜息をつく。
「ミユウは分かっていない。
マルセウスの王太子とウズデロイドの王だぞ。
白い物でも黒と言わせる権力があるんだ。
夢物語な逃亡など望むな。すぐに逃げるぞ」
「ちょっと待ってルティン」
「殿下のおっしゃる通りです」
美優を止めたのはカレンディアだ。
「私が王妃教育で受けたウズデロイド王は、領土拡大を進める好戦的な王でした。
後宮の姫を寵愛することもなく、王の逆鱗に触れ取り潰された高位貴族はいくつもあります。
反面、能力主義で身分が低くとも重用することは有名です。
ですから、ミユウ様と一緒にいる王を見た時は驚きました。
誰よりもお忙しい方が、ミユウ様に会うことを最優先させているのですから。
そのような方が王家外交をするとは、ミユウ様を正妃にするためです。
寵妃にするなら、マルセウスに侵攻して奪えばいいのですから」
「そんなの勝手に決められて受け入れるはずがない。
神獣の巫女や、王太子の婚約者、ウズデロイド王の妃、どれも私は望んでない。
どう考えても大国の王妃なんて大役、私に出来るはずがない。カレンディアだって王妃教育に何年もかかったのでしょう」
先ほど堂々と出て行く、と言った時とは違い、視線を反らし自信なさげに美優が言う。
ああ、とルティンは美優を見る。
こんなに自信なさげなのに、赤い花に対面した時は勇ましく飛び込んでいった。
怒ったり笑ったり美優は忙しい。そんな美優から目が離せない。
「ミユウ、好きだ」
ポロ、と言葉がルティンの口からでる。
思わず、しまったと表情を固めるルティンに美優は気にもしない。
「どうせ、魅了の反動で思い込んでいるだけでしょ?」
美優の言葉は、ルティンに深く突き刺さる。
「ミユウ様、この世界では父親が娘の結婚を決めます。
娘の幸せを望んでの結婚ばかりではせん。
家や金銭の為に、娘は嫁いで行きます。
王太子やウズデロイド王の考えは、この世界では間違ったことではないのです」
だから、王太子から婚約解消と言われても受け入れるしかなかった。
「そうなのね、分かった」
美優はカレンディアに笑顔を向ける。
「じゃ、すぐに逃げよう」
立ち上がろうとして、美優がよろけるのをカレンディアが支える。
「ミユウ様、まだ体力がおもどりになっておりません」
「ミユウは僕が連れて行くよ。
王宮は魔術防壁がされているから、転移は転移陣が描かれているところからしか出れない。
この部屋に陣を描いても発動はできないんだ」
ルティンが美優を抱きかかえようとした手はワンに退けられる。
「大丈夫だ、俺がご主人もカレンディアも乗せて行く」
ワンはテラスに出ると、神獣の姿に変える。
その背に美優とカレンディアが乗ると、ルティンも続こうとして、美優に蹴り落された。
「じゃま」
美優の一言が、ルティンの綺麗な顔をゆがませる。
「王子様なんて連れて行ったら、すぐに王族の責務なんて言い出しそうなんだもん」
ルティンはワンの毛を掴み離れない。
「あの二人に追いかけられるんだぞ。
好きな女が奪われそうなのに、黙ってられるか!」
「殿下、何者かが王宮の防護を突き破り、飛び出していきました!」
警備兵がアーノルドの執務室に飛び込んで来たのは、すぐのことだった。
「ワンだな」
椅子に座り足を組むアーノルド。
「なかなか思い通りには動いてくれないな。さすがは巫女。
だが、カレンディアは返してもらうよ」
さて、どうしようか、と考え始めてルティンがいないことに気が付く。
裏切者はルティンか、仕方ない、惚れた女の為だからな。
だが、ライバルは強敵だぞ、とほくそ笑む。
巫女が赤い花を駆逐したことは、どんなに箝口令を引こうとも噂は止められないだろう。
あの場には多くの魔術師や騎士がいた。好意的な者ばかりではない。
デイルがしたように、たくさんの人間が巫女を狙うだろう。
ルティン、お前に巫女を守り切る力があるか?
それはカレンディアをも巻き込むだろう。
だから、僕はウズデロイド王に協力するよ。
アーノルドはフランシスに魔術便を飛ばした。




