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魅了という執着

陽も暮れ、薄暗くなった部屋でカレンディアは目が覚めた。

そうか、と思い出す。

魔力を使い果たし、自分は倒れたのだ。

抱きかかえられた時、王太子の腕が温かかった。きっと魔力を分けてくれたのだと思う。


部屋の暗さに目が慣れてくると、ここはマルセウス王宮の客間と気が付く。

ミユウはどこだろう、と周りを見てもいない。違う部屋に運ばれたと考えるしかない。

「だれか」

声を出すと直ぐに扉が開き、侍女が入って来た。

「ニードルフ侯爵令嬢、お目覚めになられてよかったです。

すぐに冷たいお飲み物をお持ちします」


「ありがとう、それより巫女様はどちらにいらっしゃるかご存知ですか?」

カレンディアの問いかけに、こちらです、と侍女が案内しようとする。

ベッドから降り、一歩踏み出すもよろけてしまう。

慌てて侍女が手を貸し、カレンディアは寝室を出る。見覚えのある居間のソファの背に男物の上着が掛けられているのを見ていると侍女が王太子のだと言う。

「こちらは王太子殿下の部屋です。侍従しかいませんので、ニードルフ侯爵令嬢が休まれている間は私がお仕えすることになりました」

やはり、というのがカレンディアの思いだ。

寝室は知らないが、王太子の部屋には婚約者だったころに何度も来た。

居間のソファに座り、お茶を飲んだ思い出。

何故に今更、王太子の寝室など噂になるだけでは済まない、と分かっているがどうでもいいとも思う。

「巫女様のお部屋に案内してください」


「僕が案内しよう」

連絡がいったのであろう、王太子アーノルドが部屋に来ていた。

「お忙しい殿下に申し訳ありません。ミユウ様の部屋が分かれば一人でも大丈夫です」

アーノルドの様子を見れば、急いで来たのがわかる。

だが、赤い花の現地にいた為に執務は滞っているはずだし、何より赤い花の事後処理があるはずだ。


「例え王宮の廊下といえ、君を一人で行かせるはずないだろう」

アーノルドがエスコートの手を出してくるのを無視してカレンディアは前に出ようとする。

「そうでした、私は巫女様を殺そうとした罪人でした。一人で行動など許されませんよね。

見張りの警備兵を付けてください」

「そういう事ではない。

君はどれほど美しいのか分かっていない。君が危険なのだ」

以前のカレンディアなら嬉しいと喜んでいただろうが、今は違う。

「殿下のそれは、魔術の反動です。真の気持ちではありません」

そんな気持ち貰っても嬉しくない、好きだと思った気持ちさえ疑ってしまう。


アーノルドはカレンディアの手を取ると、自分の腕にまわさせてエスコートの形をとり、王宮の廊下を歩き始める。

もちろん騎士や侍従がガードしている。

「魅了という絆で繋がっていた時は、近くならば触れていなくとも、魔力や生命力でさえ分け与えられた。

それが今は触れていないと魔力さえ分け与えられない。

君を心配する気持ちまで否定しないで欲しい。

そして、対価がいるのにどうして魅了をかけたか分かっているはずだ。

どうしても手に入れたい女だからだ」

ぐいと身体を引寄せられ、アーノルドの腕に抱き締められる。

「おやめください、殿下。

婚約を解消されたのは殿下です!」

カレンディアが、アーノルドから逃れようと腕を突っ張るが威力にならない。

警備兵も侍女もいるが、王太子を止める者などいない。

「ああ、あれは間違いだった。

カレンディアを失うところだった。

巫女を王妃にするといっても形だけのつもりだった。側にいるのは君の予定だった」

「それでも、もう婚約者ではありません」

カレンディアが睨むようにアーノルドを見上げると、アーノルドは嬉しそうに息をつめる。

「君はそういう顔もするんだね」


アーノルドは腕をゆるめると、侍従に目で指示をする。

侍従が目の前の扉をノックすると、扉が開いた。

「ここが巫女の部屋だ。まだ意識が戻ったと連絡は来ていない。

神獣が付いている。すぐに食事を運ばせよう、まだ君は休養が必要だ」

そう言って、カレンディアを部屋に入れると、アーノルドは去って行った。





赤い花の群生は、両国の魔術師、騎士により掃討され、土地を掘り返し、根の焼却が全て済んだのは3日後であった。

「そうか、皆ごくろうであった」

マルセウス王が報告を受け、王子や関係者に(ねぎら)いの言葉をかける。

「巫女の容態はどうだ?」


王太子アーノルドが応えて報告する。

「目覚めて2日になります。傷は(ふさ)がりましたが体力が戻らないようです。

神獣とカレンディア嬢が付いております」

あの巫女は体力が戻ると、すぐに逃げるだろう。いままでの様に。

カレンディアを連れていかせない、アーノルドの執着である。




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