花の最後
「陛下!」
叫んだのはダーレスだ。
生き物としての本能か、種の袋が開いて種を飛ばそうとしていた。
「させるか!」
飛び出したのは、デイル。
遅れてフランシスが叫ぶ。
「ダーレス、ウズデロイド側に戻れ!
あちらも何か起きているはずだ」
ダーレスは、警護の騎士を残して数人の魔術師を引き連れ転移陣に向かう。
それを横目で見ながら、フランシスは種に向かい魔術を放つ。
ボン!
一瞬で炎に包まれた種が燃え上がる。
デイルも種の周りに火を放ち、こぼれ出る種がないように周囲を火で包む。
アーノルドとルティンが、美優の元に着く頃、美優とカレンディアに抱きつくように飛び出してきたのはニナだ。
ルティンの指揮下にいたが、二人の姿に飛び出してしまったのだ。
「ミユウ様!カレンディア様!
もう大丈夫ですから」
ニナに二人を託すと、アーノルド達は周囲の確認を始める。
ワンは辺りの花を焼いて安全を確認してから、二人を置いて奥地に花の殲滅に行っているが、生き残っている花や根が伸びているかもしれないからだ。
意識のない美優と、美優が自ら切った腕を押さえているカレンディア。
美優は種に血をかけるために、腕を深く傷つけていた。
「先程から治癒をしているのですが、傷が治らないの」
魔力を使い果たしているカレンディアは、立っているのもやっとである。
それでも、美優の傷を治そうと治癒魔術をかけ続けている。
「カレンディア様、恐ろしかったでしょう?
まだ掃討が残っていますが、これで国は救われました」
国ではない世界だと、言っているニナもカレンディアも分かっている。
ニナは武具に巻いていた布を外すと、美優の腕をきつく縛り、血を止めようとする。
「ぅ」
小さな声で美優がうめくいて、カレンディアはその手を取る。
そのカレンディアが急に宙に浮いた。
「きゃあ」
周囲の掃討をしていたアーノルドが後ろからカレンディアを抱き上げたのだ。
横には、美優を抱き上げたルティンがいる。
「美優の血が止まっていない、どういうことだ!?
治癒魔術が効かない?」
ルティンに尋ねられたニナが頷く。
「私も治癒をかけたんですが、反応はありませんでした」
カレンディアには心当たりがあったが、確信はない。
カレンディアが美優を刺した時、美優は自身で治癒をしたのだ。
美優を治癒するには自身の魔術でなければならない、としたら美優の意識が戻るまで待たねばならない。
それまで魔術を使わない治療で出血を押さえるしかない。
止血され、今は血が止まっているが、さっきまでは流血していた。
その血は空気に溶けるように霧となり、辺りに拡散した。
ワンが自分達を追いて奥地に向かったのは、それを見て辺りが殲滅できて安全になったと確信したからだ。
この花は生きている限り美優を狙う。だから、ワンは全滅させねばならない。
どうして狙うのかは分からない、狙われているということが重要なのだ。
それを、アーノルド達に言うつもりはない。
美優の血の秘密を知らせることは出来ない。
アーノルドが歩む振動が心地いい。
温かいアーノルドの腕も、疲れたカレンディアの意識を奪っていく。
「よく頑張ったな」
アーノルドはカレンディアを抱く腕に力をいれる。
「ミユウ」
種の処理を終えたフランシスとデイルが駆け寄ってくる。
「しばらくミユウを預ける。
俺はあっちを確認してくる」
そっと美優の傷に触れ、弱った美優に魔力を流すフランシス。
ルティンがフランシスを睨むが、フランシスは気にも留めない。
辺りは花の焼け焦げた匂いと煙が充満していて、魔術師や騎士達が掃討を終えるにはまだ時間がかかるだろう。
国境をまたいで広範囲に花が広がっているからだ。
それでも、誰もが勝ったと分かっている。




