大きな賭け
「あっちの方の声が大きく聞こえるの」
美優が指さす方向は、街一つ分以上に広がっている赤い花の奥深く。そこまでたどり着く前に、花に吸収されてしまう。
しかも、そこに種があると確定できているわけではない。危険が大きすぎる。
ダン!
突然地響きが起こり、地面が大きくえぐれた。それは、次々と地面がめくれ上がる。
赤い花ごと掘り起こされたような大地に、新たな根が広がる。
それを、また地面がめくれるのと根が広がるのが繰り返される。
「チッ、もっと早く地面を掘らないと根が広がるスピードの方が早い」
フランシスが地面から手を離して、呪文を唱え直す。
「そうか!根が広がるより花を駆除するスピードが早ければ、吸収されずに前に進めるということか」
デイルがフランシスの意図を察して大声をあげる。
デイルの魔術で花が燃え始めるが、焼け跡になった途端に新たな芽がでて広がる。
「ワン、方向がわかるか?
そちらに道を作る。」
フランシスが叫ぶと、ワンが神獣の姿を巨大にさせた。
その背に美優とカレンディアを乗せると用意は出来き、ワンが今にも飛び出しそうな姿勢を取る。
「殿下、人間は俺のスピードについてこれない」
ワンに言われれば、アーノルドとルティンも引き下がる。
「仕方あるまい、足手まといになるわけにいかない。
後方で支援する。無事に戻って来て欲しい」
アーノルドが神獣ワンに礼をする。
フランシスとデイルだけでなく、アーノルド、ルティン、ダーレス、両国の魔術師たちが広範囲の赤い花に攻撃を始めた。それを合図にワンが飛び出した。
花を魔術で吹き飛ばして出来た道をワンが駆ける。
背に乗せた美優が、声が大きく聞こえる方向を指さすのをカレンディアがワンに伝える。
その美優は身体を丸め、苦しそうに大きく息をしている。
土を掘り、火を放ち、爆音と土煙が立ち会がる。
ワンの進行方向の花が燃やされ、根は土ごと飛び散る。
ゾク、カレンディアが恐ろしい冷気を感じた。
それは、ワンもだろう。
美優は、身体を震わせながら身を丸くして両手で身体を包むようにしている。
「ミユウ様、ここですか?」
カレンディアは後ろから美優の身体を支えるようにしながら確認する。
「ワン、ここだと思う」
美優の声がワンへの指示だ。
ワンが放つ真っ白の光が放たれると、大きな穴ができ、花の根が掘り返され宙に舞った。
その中にたくさんの茎、根が集まっている部位があった。
「あれだ」
根が広がる中心に小さな粒が見える。そこから茎も伸びている。
カレンディアが魔術で燃やしたが、地に落ちると直ぐに芽が延びて来た。
美優とカレンディアはワンの背から降り、種に近づこうとした時、横から茎がおそろしい速さで成長しながら美優に巻きつこうとする。
カレンディアが美優の前に飛び出して、その身に茎が巻き付く。
「カレンディア!!」
美優の叫び声より早く、ワンがその茎を切り離す。
切られた断面から、新しい茎が生えてくる。恐ろしい繁殖力と生命力である。
ポタ。
美優が腕を傷つけて流れ出た血を、種の周りに落とす。
ジュウウウウ!!!
一瞬にして、焼け焦げる匂いと煙が辺りを包む。
種から枯れが広がるように、赤い花の色が変わっていく。
それは遠くにいるフランシス達にもわかったようで、大きな歓声があがる。
「声が聞こえない」
美優から、思わず言葉が漏れ出る。
ザン!
アーノルドとルティンを先頭にして騎士達がまだ生きている赤い花を切り捨てながら、走って来るのが見えると、美優は意識を手放した。
側にいるカレンディアが支えているが、カレンディア自身も魔力の使い過ぎでフラフラである。
ワンは、周りの花を燃やしているが、もう再生しない。燃えてしまえば崩れ落ちていくだけである。




