マイマジェスティ
ダーレスは美優を観察していた。
ウズデロイド王宮で、何度か見かけたが、王や神獣に守られた弱い存在のイメージしかなかった。
それが、ここにきて赤い花に突進しようとしている。
「巫女殿、我々もたくさんの実験をしましたが、この植物の生命力は凄まじいとしか言いようがありません。
もし、それが一粒の種から成育したのなら、繁殖力も恐ろしいとしか言えません。
それは人間の危機と言えるものです」
だからこそ、マルセウスとウズデロイドが協力しているのだ。
「魔術などで、燃やしたり枯らしたりしたら、燃えたり枯れたりするのです。
ただ、直ぐに根を張り、新しい花が咲くのです。
それは、根本を叩かねば無駄だという事で、叩けば再生が出来なくなるということです」
「それは、種ということですね?」
確認するように美優が言うと、ダーレスが頷く。
「仮説でしかありませんが、それしか考えられない。
そして、新しい種はマルセウス国内で実をつけている」
広大に広がった赤い花全てに対処できないが、種に集中すれば美優の力が使えるかもしれない。
再生能力の無くなった花ならば、両国の騎士や魔術師が殲滅できるはずだ。
「種がどこにあるか、わかっているのですか?」
頭に響く声が頭痛となり、耳を抑えるような美優。
「それを今探している」
答えたのはデイルである。
「花に近づいて、この声が大きくなるところを探れば」
美優を止めたのは、ワンでもカレンディアでもなく、後ろからかけられた声だ。
「ダメだ。危険が大きすぎる」
振り返ると、そこにはやはりフランシスがいた。
「却下だ」
あの花が自分を狙っていると知っている美優は、それぐらいでは怯まない。
今やらねば、ずっと狙われるのだ。
種を飛ばし、根を広げ、たくさんの命を糧として追いかけてくるに違いない。
決意が揺るがないように周りを見渡すが、賛成してくれる人などいない。
フランシスもルティンも苦い顔をしている。
「お供いたします」
前に出て来るのはカレンディア。
「私の中にも、ミユウ様の血が混じっております」
ガシッ、と後ろからカレンディアの手を掴むのは、いつの間にか来ていたアーノルド。
カレンディアは、アーノルドを確認すると、腕を振り払い一瞥もせずに美優に微笑む。
「マイマジェスティ」
アーノルドの表情は変えないが、冷たい魔力が漏れ出た。
立ちつくすアーノルドを目の端に入れながら、美優がこっそりカレンディアに話しかける。
「ちょっとすっきりしちゃったわ」
フフフ、と笑う美優にカレンディアも笑顔を見せる。
「どうして、あれで嫌われると思わないのでしょうか?
バカですね」
「きっと、カレンディアとの婚約時代に信頼が出来ていると思っているからよ」
「その信頼を巫女との婚約の為、解消したのはあちらですのに」
魅了がなければ、その仕打ちを仕打ちと受け止めるのだ。
アーノルドが近づいて来て、美優とカレンディアは内緒話を止める。
美優の前に立つと、膝をついたのだ。
「神獣の巫女、あなたのお力をどうかマルセウスの民にお与えください。
そして、無事に戻られますことを心より願っております」
マルセウス王国の王太子としてアーノルドは膝をおったのだ。
そして、カレンディアを無事に返して欲しいと願っていると告げたのだ。
「僕が先払いとすることを許し願いたい」
それから、アーノルドは、とんでもないことを言い出した。
王太子を先頭にするなどありえない。なのに顔をあげたアーノルドの瞳は静かに覚悟を宿していた。
美優を種の元に連れて行くために、踏み台になるということだ。
王太子だからこそ、国を守る為の決意を表していた。
王太子のスペアはいても、赤い花を殲滅できる巫女は他にはいない。
「殿下、どうぞその役は俺にお譲り願いたい」
手を差し出したのは、ワンである。
遅れてルティンが駆け寄って来た。
「兄上、バカなことを言わないでください。僕がその為にいるのです。
ワン、僕も連れて行ってくれ」
困った兄弟である。
もう一人の弟デイルは、兄の行動に躊躇していた。
王の座を狙いながら、覚悟の足りない弟である。
そして、フランシスは燃えるような瞳でアーノルドを見ていた。
世継ぎも兄弟もいないフランシスは、代わりのいない王であるからだ。
だからこそ、自分の魔力で美優を守るべく防御魔術を構築していた。




