カレンディアの復讐
「陛下、殿下、直ぐに朝食を用意いたしますので、お待ちくださいまし」
カレンディアが、美優から離れ席を立つ。
手伝うよ、と美優も慌てて追いかけると、男3人が残された。
フランシスが持って来た野菜を切りながら、美優がカレンディアに尋ねる。
「許してあげるの?」
「ま・さ・か」
ふふふ、とカレンディアは笑顔を向ける。
「殿下が私のことを好きだなんて知りませんでした。
たくさんの女性を連れてましたので。
私は王太子妃にふさわしい家柄で、選ばれただけなのだと思ってました」
あの顔だ、魅了などなくとも女性が群がるだろう。
そして、本命は魅了でキープしておく、バカだ。
美優は考えながら、ルティンもデイルも兄弟だな、と納得する。
「王太子殿下は、本当にカレンディアが好きみたいだよ?」
「今の私の一番はミユウ様です」
「それこそ、私の血による従属かもしれないよ?」
ワンは、それにあたるのだろう。
「それでもです。
ミユウ様は、自分を刺して殺そうとした私を助けようとしてくれました。
その気持ちは本物ですもの」
スープの味を整え、パンを温める。
カレンディアの手際は、侯爵令嬢のそれではない。
「魅了されていたとか、解呪されたとか実感はなかったのです。
でも、先ほど殿下のお話しを聞いて、怖いと思いました。
そこまで好かれて嬉しいと思わなかったのです。これが解呪されたということか、とストンと入ってきました」
コーヒーの追加をポットに入れながら、カレンディアはカップの用意をする。
「新しい出会いが、これから待っていると思ってドキドキしてますの」
子供の頃に王太子の婚約者となって、様々な制限を受けてきた。
これからは、どんな事でも出来る。
どこにでも行ける、知らない世界が待っている。
カレンディアと美優が朝食を運ぶと、居間ではフランシスとアーノルドが話し合っていた。
お互いに探り合いながら、赤い花の話をしているのは間違いない。
協力しないと壊滅させられないのは分かっていても、主導権の問題なのだろう。
今まで、友好関係ではない国であったために尚更である。
「お食事の準備ができました」
カレンディアが声をかけると、アーノルドが顔をあげる。
「カレンディアが作ったのか。
いい匂いがするな」
「はい、お褒めいただきありがとうございます」
アーノルドとカレンディアのありふれた会話だが、美優は気が付いた。
カレンディアが社交辞令の笑顔で話しているのだ。
もちろん、アーノルドも気が付いている。
ゾッとした。
それが、アーノルドの偽らない気持ちだ。
カレンディアが自分を見る瞳は、フランシスやワンに向けるものと同じものだ。
アーノルドを求めて、美優を刺したカレンディアはもういない。
カレンディアは、アーノルドを拒否することも否定することもない。
興味がないと示している。
客人、それがカレンディアのアーノルドに対する扱いだ。
カレンディアがアーノルドに興味を失った。
それがアーノルドへの最大の復讐となってしまった。
例えアーノルドが許しを請おうとしても、過去を無かった事には出来ないのだから。
食事を終え、フランシスとアーノルドはゆっくりしていられる訳ではない。
執務の前に顔を見せに来たのだから、急いで王宮に戻らねばならない。
「巫女」
アーノルドは、美優の名前を呼ばない。
「この小屋は改築しているとはいえ、手狭だろう。
離宮を用意するから、そちらに移るがいい」
「そこには、新しい出会いはなさそうだから、行かない」
美優は即時に断る。
「そうか、次はいい返事がもらえるよう土産を用意しよう」
自国の王太子が出て行くのを、カレンディアは美優の後ろで見送る。




