王と王太子
朝早く、野菜を持ったフランシスが美優の元を訪れていた。
「おはよう、フランシス」
厨房から、淹れたてのコーヒーを持った美優が顔を出す。
コトン、とカップを置くとコーヒーを注いでいく。
まだ、これから朝食という時間である。
執務の前に来たのだろう。
椅子を引いて美優が前に座ると、ガサガサと野菜の籠をあさって、フランシスが小さな包を広げる。
「人気の店の焼き菓子だそうだ。
カレンディアと食うがいい」
こういう事は上手いフランシスである。
「ありがとう」
美優が、笑顔で礼を言うと、フランシスも笑顔になっている。
「魅了を解呪したが、身体に変調はないか?」
フランシスは、これを聞きたかったのだろう。
「大丈夫、いつもと同じ」
「ご主人、客だ」
ワンが、部屋に入れていいか、と確認してくる。
ワンが認識をしていることで、美優に否定する意思はない。
ワンの後ろから入ってきたのは、マルセウス王族太子アーノルド。
アーノルドの先客が誰かわかったのだろう、一瞬目を細めた。
ウズデロイド王とマルセウス王太子の初めての邂逅。
先に口を開いたのはアーノルドである。
「初にお目にかかる、マルセウス王太子アーノルドです」
王と王太子では、王の方が地位が高いからであろう。
「挨拶悼みいる。こちらはマルセウス王国内、俺が邪魔している立場である」
穏やかな口調であるが、双方の瞳は冷え切っている。
場を取り仕切るのはワンである。
「ご主人はこっち。カレンディア」
カレンディアを呼んでアーノルドの横に座らせる。
「ワン!」
カレンディアが席を立とうとするのを、ワンが制する。
「ご主人とカレンディアがいないと、一触即発だ」
「ワン、そんなことはない。
僕はウズデロイド王とは共闘できると思っている」
白々しい言葉をアーノルドが言えば、フランシスもニヤリと笑う。
「確かに、王太子とは取り合いになることはないからな」
グッと、美優を引き寄せれば、美優がフランシスの足を蹴る。
目の前で起こった事に、アーノルドが目を見開く。
「女の子は景品じゃないし、デリカシーなさすぎ!」
美優が、距離、とフランシスとの間に隙間を作る。
「全くですわ」
カレンディアも、アーノルドとの間に隙間を作る。
「まて!
どうしてこうなる」
「あら、婚約者を変えられたのは殿下ですわ」
ホホ、とカレンディアが口元に手を当てる。
「フランシス陛下、アーノルド殿下はミユウ様を婚約者とお考えですの」
爆弾投下のカレンディア。
「そこに私の意思はないから!」
ね、ね、とフランシスの機嫌を美優が取る。
フランシスは面白そうに、アーノルドを見ている。
アーノルドはカレンディアの手を取ろうとして、カレンディアに振払われる。
信じられない、とばかりにアーノルドが目を見開いてカレンディアを見つめる。
「僕を怒らせるな」
「反対ですわ。
怒っているのは私ですの。でも、もう関係のない人ですから、忘れる事にします」
外交使節と会っているような笑みをフランシスに向けるカレンディア。
「カレンディア!」
「王太子殿下、申し訳ありません。私の忠誠はミユウ様に捧げてます。今後は、そのように名前では呼ばないようにお願いします」
「カレンディア、嬉しいな。私もカレンディア大好き」
美優がフランシスから離れて、カレンディアに抱きつく。
「お前、しっかりカレンディアを捕まえておけ!」
フランシスがカレンディアから美優を剥がそうとして、アーノルドに文句を言う。
「私覚えている!
カレンディアが呪いの反動で倒れて死にそうな時、この人、カレンディアを横目で見たのに無視したのよ!」
カレンディアが美優を刺した時のことだ。
「カレンディアを死なせるはずがない」
アーノルドは言い切る。
「そうか」
急にワンが納得したように頷いた。
「殿下は、横目で見た時に、カレンディアに魔術で命を分け与えたのだな。
ご主人の魔力以外をカレンディアから感じていたのは、殿下の魔力か!」
アーノルドがキッとワンを睨むがワンは話を止めない。
「カレンディアを死んだ事にしたかった、そういう事か。
俺には理解できないが、これがルティンの言っていた執着の魔術というやつだな。
死んだ人間なら、人知れず囲うことが出来るからな」
うわあ、怖すぎる!
美優が横目でアーノルドを見ても表情は変わらない。
それどころか、フランシスが同感とばかりに声を上げる。
「いい手だな」
「殿下のその想いは、魔術による反動ですわ。
作られた想いです」
当事者のくせに、他人事のようなカレンディア。
それだけ、カレンディアが傷ついているのだ。
「それがマルセウス王家だ」
アーノルドは自分だけでなく、ルティンもデイルもだと言っているのだ。
「今更なのよ! もっと最初から大事にしないから思い知るがいい!」
美優が叫ぶ。




