王子の想い
カレンディアの顔色が悪い。
「大丈夫? 先に休む?」
美優が、カレンディアを覗き込みながら聞いてくる。
「大丈夫ですわ。
私がミユウ様に害をなした時、助けてくれようとはしませんでした。
それを今更。いなくなるとキープしたくなるぐらいは、気にかけてたということでしょうか?
自分が哀れで。
お姿を見た時に、心が跳ねましたの。
子供の時からずっとお側にいて好きでした、滑稽な私」
カレンディアは貴族の令嬢の中でも、美しさでは群を抜いているだろう。
美貌の王太子と並んでも劣らない。
「違うよ。
王太子は私なんて視界にいれてなかった。ずっとカレンディアを見てたよ。
婚約解消だって、巫女を王妃にするためだって言ってたじゃない。
きっと、婚約解消してもカレンディアを側におくつもりだったんだよ。
幽閉って、あの時から用意されてたんじゃないの?」
美優は言いながら、恐ろしいことに気が付いた。
王太子は、カレンディアに固執しているのでは?
そんな男に魅了の魔術。
カレンディアの魅了が解呪されていると知ったら、絶対にカレンディアの自由を奪いに来る。
カレンディアは、まだ好きかもしれないけど、お勧めできないタイプだ。
「ルティンも王太子殿下もあんなに顔がいいのに、どうして魅了なんて使うのかな?」
美優が分からないように、カレンディアも分からない。首を横に振るだけだ。
「もし私が魅了を使えたら、殿下にしていたと思います。
好きな人に好きになって欲しいから」
それだといいのに、それだけじゃないとカレンディアは思う。
「ご主人、俺は外を見回ってくる」
ワンが外に出ると、カレンディアが食器を片付け始める。
狩猟小屋に相応しくない、豪奢なティーセット。
茶葉も一級品である。
料理だけでなく、掃除も洗濯も、ワンとカレンディアと美優で分担してする。
侯爵令嬢から、王太子妃、王妃となるはずだったカレンディアが料理を覚え、美しい白い指は荒れてきている。
それでも、王太子はよく気が付いていたなと美優はカレンディアの姿を目で追いながら思う。
それでも魅了をしたことは許せない。
逆襲あるのみ。
カレンディアが思う以上に、王太子がカレンディアを思っているとしたら、すごく面白いことになると、美優は笑いがこみあげて来そうである。
王太子の固執は恐ろしいが、それ以上に面白そうである。
カタン、と音をたててワンが戻って来た。
「ご主人、客が来ている」
ワンと一緒にいるのはそこにいるはずのない人間、デイルだった。
少し痩せたのだろう、大人びた雰囲気になっていた。
「久しいな」
美優を殺そうとしたくせに、親し気に声をかける。
物音で今に戻って来たカレンディアは美優を庇うように前に立つ。
「デイル殿下、どうしてここに?」
美優を襲ったことで、幽閉されていたはずなのだ。
「もうミユウを狙ったりしないから、話しに来ただけだよ」
デイルについている護衛は監視も兼ねているらしく、側を離れない。
「ごめん、彼らも一緒でいいかな?」
デイルにも許可を出したつもりはないが、デイルは話を進める。
「カレンディア、大丈夫」
美優の言葉で、カレンディアは横による。
「ここからは離れているが、問題が起こってね。
未知の植物が危害を加えている。
ウズデロイド王国が知らないはずがない。国境の向こうも同じ状態のはずだから。
僕は、魔力の強さで限定的だが調査に加わっているんだ。
それで、ウズデロイド側とも情報交換をしたい」
「じゃ、ここでなくウズデロイドに打診すればいいじゃない」
美優が言うことが最もである。
「マルセウスとウズデロイドは良好な関係とは言えない。
しかも、ウズデロイドの方が魔術研究は進んでいるだろう。我が国の情報を欲しいと思わないかもしれない。
だが、ここはウズデロイド王直轄といってもいいぐらいの所だ。
そして、あの植物には両国の協力なくしては殲滅できない」
ワンはこの話を聞いたから、ここにデイルを案内したのだろう。
美優はデイルを信じてはいないが、あの花をなんとかしたい気持ちは同じだ。
「カレンディア、もう一度お茶をちょうだい」
そう言うと、ソファに座り直した。




