それぞれの想い
狩猟小屋にはルティンが来ていた。
ニナから、人影がないと報告を受けて確認に来たのだ。
周囲を警備している兵からは、出た人間がいないのは確認済である。
残る可能性は、小屋の中にある転移陣。
それの転移先はウズデロイド王宮。
わかってはいても、ルティンにその転移陣を使う事は出来ない。
ルティンではフランシスの転移陣は稼働しない。
「少し自由にさせ過ぎたな」
ルティンは、部屋の中を歩き回る。
まさか、魅了を解呪されているとは思いもしない。
ふと机の上の刺繍されたハンカチを見る。
まだ刺繍枠がはまったままで、途中で止まっている。
刺繍がルティと読めると、思わず笑みがこぼれた。
美優が自分に作っている途中なのだろうと、そっと手で触れる。
ささくれていた気持ちが落ち着いてくる。
「早く完成させろよ」
ニナから美優がいないと聞いて、僅かな時間をさいて来たのだ。
赤い花の正体もわからず、マルセウス王宮では緊迫した状態が続いている。
それを抜け出して来たのだ。
ルティンにとって面白くない状態が続いていることでもある。
美優はマルセウス王宮を飛び出し、兄の王太子が美優を婚約者にするつもりでいる。
弟のデイルは幽閉され、そこに人食いの花。
「野営で食べた美優の料理が食べたいな」
ポツンと言葉を落として、小屋の外に出る。
木に繋いでおいた馬に飛び乗ると、近くの転移陣に向かう。
その頃、ウズデロイドの王宮では、美優はカレンディアと共に深い眠りについていた。
無理やり魅了を解呪した負荷は大きく、フランシスに運び込まれてからずっと眠っている。
美優は、ルティンだけでなく、アーノルド、デイルの3人からかけられていた。
カレンディアは、アーノルドから何度も何度もかけられていたのだろう、解呪にかかる負荷は美優とは比べようもなく大きかった。
そんな二人は、もう夢に苦しむこともなく穏やかに眠っている。
美優は、小屋にルティンが来ていることも、フランシスが美優に針を食べさせようとした人間を抹消しようとしていることも知らない。
マサチュート侯爵は猿轡をされ、手足を拘束されたまま軍の地下牢に放り込まれた。
「お父様」
先に牢に入れられていたミルドレッドが、拘束を外そうとするが高位貴族の令嬢の力では無理だった。
カツンカツンと地下牢に響く足音。
現れたのはフランシスではない。
トミー・ロウ・ビステア、フランシスの腹心である。
「陛下でなくて残念でした。
もう陛下の関心は貴方達にありません」
それは、フランシスの中で処分は決まっているという事だ。
「陛下は後宮で何が起ころうと放置でした。それと同じように考えていたなら都合の良い夢でしたね」
貴方達は、陛下の聖域に手を出したのですよ。
言葉にしないが、トミーは牢の外から二人を見下ろす。
二人は研究所で、赤い花に対する人体実験に使うように言われている。
赤い花に食べられた侍女の方がマシだと思うぐらいになるだろう。
「私は関係ないわ!
侍女が嘘を言っているのよ!」
ミルドレッドが牢の柵を握ったのでガタガタ音がする。
「ミルドレッド嬢、貴女は負けたのです」
拘束されてはいるものの、侯爵には聞こえている。
侯爵が身体をよじり、身体を起こそうとするが不発に終わる。
ミルドレッドは、微動だにせず焦点もあっていない。
「そんなことないわ。
私の方が陛下に似合うのだから!」
ミルドレッドが牢屋の柵超しにトミーに詰めよるように声をあげる。
牢に入れられ、精神は崩壊寸前なのだろう。
何でも思い通りになるように育てられた美しい令嬢。陛下に顧みられることもないのに争いだけはある後宮。
侯爵は、やっと間違いに気づいたらしく身体が震えている。
フランシスが甘い人間でないのは知っているが、あの女に固執するとは思ってなかった。
そして自分の未来が見えたのだ。
トミーは侯爵に、絶望を伝えに来たのだった。




