後宮解散
「陛下、お待ちしてましたわ」
贅を尽くしたドレスを纏う美しい令嬢がフランシスにしなだれかかるのを、片手で振り払って、フランシスは令嬢を離した。
フランシスの後ろにはトミーが控え、護衛の騎士も従えている。
それを、ミルドレッドが不思議そうに尋ねる。
「後宮は陛下以外の男性は立ち入り禁止ですのよ?」
美優の事件は箝口令が引かれているために、後宮には知らされていない。
侍女が戻ってこないことから、侍女は首尾よく逃げたのだと思っているのだろう。
「すでに後宮は解散すると触れを出してあるはずだ。
何故にまだいる?」
「陛下のお戯れも、すぐに飽きると思ってましたもの。
こうして来てくださりましたわ」
美優を戯れの遊びと揶揄するミルドレッド。
「ああ、お前を処刑するためにな。
よくもあいつに針を食べさせようとしたな」
フランシスはミルドレッドに触られるのも不快とばかりに、眉をひそめる。
ミルドレッドの方は、哀れをさそうような表情で否定する。
「陛下? 何がですの?」
自分は何も知りません、とミルドレッドは強調する。
フランシスが手を挙げると、待機していた兵がミルドレッドを捕縛する。
「何をするの! 私はマサチュート侯爵家の娘よ!」
ミルドレッドの抵抗など、兵の妨げになるものでもない。
ミルドレッドを助けようとした侍女も縛られ、ミルドレッドと一緒に連行されていく。
フランシスの独裁はすでに知られていたことだったが、後宮にその手がだされることはなかった。
後宮にフランシスの訪れこそなかったが、いつか王の子を育てる場として潤沢な予算が組まれており、不自由はなかった。
それが、後宮の解散と告げられて僅かな日数しかたたない時に、後宮最大権力の令嬢が王の逆鱗に触れ、連れ去られた。
後宮の解散といっても、すぐに出て行く令嬢達ではない。王の子を産む使命を一族から受けている者達だからだ。
王の寵愛を争う場である後宮で、後宮に部屋をいただく女性達に争いがないはずがない。
それを生き残った令嬢達が、簡単に後宮を出て行くことはないが、ミルドレッドの処分を見れば話は別だ。
ミルドレッドが何かしたのだろうと想像がつくが、どの程度の罪をしたのかは分からない。
それでも、ウズデロイド王が処罰するには十分なのだ。
そしてそれは他人事ではない、ここでは王の寵愛を得られない、とそれだけは分かった。
ミルドレッドの部屋の様子を窺っていた他の令嬢達は、後宮を辞する準備を始める為に部屋に戻った。
「陛下」
トミーが部屋の確認をして、侯爵から娘に出された手紙を探し出してきた。
「ずいぶん、無造作に置いてありました」
血統主義を掲げるマサチュート侯爵は、有能ではあるが、代わりがいないではない。
娘に次代の王を産ませたかったのだろうが、野望を持ち過ぎた。
それをフランシスが許すはずもない。
ましてや、美優に危害を加えた時点で、フランシスの逆鱗にふれた。
執務室に現れた美優の情報が手紙には書かれていた。
これを見て、ミルドレッドは凶行に及んだのであろう。
そしてそれは、準備されていたからこそ、急なことにも準備でき侍女に指示をしたのだ。




