魅了の解呪
ルティンに復讐したい、それは魅了の一つの想いなのだろうか。
美優はこんな気持ちになるなんてと、目の前に立つフランシスを見る。
フランシスは魔術師団長が描く魔術陣に魔力を込めていた。
こんなにしてくれるフランシスよりも、ルティンのことが頭から離れない。
魅了。
カレンディアが私に刃を向けたのがわかる、強い思い。
「他人がかけた魔術を解呪するのは、大きな魔力がいる。
しかも、ミユウだけでなくカレンディアもだ。
別々の人間に強い魅了をかけられている。
マルセウス王家は魅了を特化する魔術系統なのだと考えられる」
フランシスが、魔術の説明をする。
「これは、魔力を増幅する魔具だ。
魔術陣の中央に立ってくれ、トワーニ師団長が呪術を唱える。
解呪するときに、二人には大きな負荷がかかる、覚悟はいいか?」
コクンと頷く美優と、礼をするカレンディア。
二人陣に入ると、ワンが二人の手を取り魔力を流す。
「ご主人からいただいた魔力、ご主人にもカレンディアにも馴染み深いはずだ。
体力増強の術を組み込んでおいた」
「俺は魅了なんて反則技は使わないから、覚悟しておけよ」
フランシスはミユウにニヤリと笑って、始めるぞ、と一言。
魔術師団員が魔具に魔力を込め、光出したのを合図に、師団長が呪術を唱え始めた。
フランシスもワンも大きな魔力を持っているが、解呪のような繊細な魔術には魔力だけではダメなのだ。
「きゃああ」
胸を抑えてうずくまるカレンディア。
一番弱そうに見える美優が歯を食いしばり、陣の中央に立っている。
「う、う」
小さく漏れる声がかすれている。
噛み締めた唇が切れて血が一筋流れた。
その血が蒸発するように消えていくのを、フランシスは食い入るように見ていた。
血が魔術に反応しているのだ。
「あれは、我々の魔力とは違う力だ」
美優から流れる血を感じてフランシスが呟く。
キャラハンも呪術を唱えていて、答えられないが同じことを感じていた。
美優の口元の血が光ったと同時に、美優が崩れ落ちた。
助け寄りたい衝動を抑えながら、フランシスは見守る。
呪術が終わるまで、陣の中には入れない。
はぁはぁ、と息を吐きながら美優が身体を起こした。
周りを見渡し、フランシスとワンに笑顔を見せると、カレンディアに手をかけた。
血が滲む唇を、カレンディアの額につける。
ガクンとカレンディアが膝をつくと、美優がカレンディアを支える。
カレンディアの顔色は悪いが、美優は大丈夫なようだ。
魔術陣が消えていき、キャラハンが詠唱を止める。
魅了に反応していた陣が消えたことで、魅了の解呪が終わったと確信できたからだ。
「侍女殿は、魅了を長い年月かけられていたのでしょう。
巫女殿よりも根が深かったようです」
キャラハンの言う根が深かった、という言葉にひっかかる物を感じながら、フランシスは美優に近寄る。
「気分はどうだ?」
「うーん、いままでと何が違うか分からない」
えへへ、と笑う美優。
「でも、術中はすごく痛かった、身体が地面にめり込みそうな程重かった。
それが急になくなったの、あれが解呪されたってことかな?」
カレンディアは体力も魔力も消費しきったのだろう、ワンに支えられているが意識はない。
「フランシス、カレンディアを休ませてあげたい」
「ミユウもだ、今は平気なようだが念のために休んだ方がいい。
よく頑張ったな」
フランシスが美優の頬に手を添えると、美優が真っ赤になった。
「え、あ、あれ」
美優が火照った顔でフランシスを見る。
ルティンの美貌には劣るが、フランシスもイケメンなのだ。
今まで、平気にしていた方がおかしい。
「魅了が解けたのだな。
やっと意識してくれたか」
クスッとフランシスが笑みを浮かべる。
「そうだよね、これがイケメンに対する反応だよね。
我ながら正常だわ。
ルティンには魅了のお礼をしなくっちゃね! ギャフンと言わせてやる」
口元に手をあて、ハンカチで血を拭うと美優は楽しそうに笑った。
「ありがとう、フランシス」
美優の笑顔がフランシスには眩しい。
「ワン、ミユウに防御をかけておけ。
二度と魅了などかけられないようにな」
そう言って、フランシスは美優を抱き上げた。
「ぎゃあ! 何するの!」
美優がわめくが、フランシスは美優の抵抗を気にもせず、用意してあった休憩室に運ぶ。
ワンもカレンディアを抱いて後ろに続く。
キャラハンは王の様子に驚きながら、後始末をしていた。
こんな楽しそうな王の姿を見るのは、初めてだからだ。
フランシス達がいなくなった部屋では、魔術の解析が始まった。
魔具からデータが取り出される。
美優の魔力のデータも取れた、赤い花のデータとの照合が始まる。
美優が血を拭う時に使ったハンカチを使った実験も試されることになる。




