精神操作ということ
美優とカレンディアは、翌朝、魔術師団長の検査を受けた。
先導する護衛騎士とワンだけが付き添いで、魔術師団を訪れている。
昨夜フランシスが来て呪いを見たが、魔術による障害を受けているがその内容までは分からなかった。
繊細な魔力の取り扱いになるので、ウズデロイド王国魔術師団長の方が長けているということなのだ。
「陛下、巫女殿お待ちしておりました」
美優がフランシスの執務室に現れた時に、部屋に居た一人だ。
「巫女殿、魔術師団長をしてますキャラハン・トワーニと申します」
40歳ぐらいであろうか、壮年の男性というのがふさわしい。
師団長としての貫禄もあり、誰もが好感を持つ雰囲気をかもしだしている。
キャラハンは美優とカレンディアを並べて座らせると、目の前にたくさんの魔術具を置いた。
「陛下から聞いておりますが、お二人にされている精神関与を確認するために、こちらの魔具に魔力を流してください」
カレンディアがそっと魔具に手を添えると、魔具が鈍く光る。それを確認しながら、キャラハンは次々に魔具に触れるように促した。
美優は躊躇していた。
魔力の訓練を受けていたが、思うように魔術を使えなかったからだ。
「ミユウ様、魔力粒を作る時のイメージでいいようです」
カレンディアからアドバイスを受けて、美優も魔具に手を伸ばす。
ポゥ、ポゥと魔具が光る。
その魔具にキャラハンが魔術を使い、反応を確認している。
「お二人とも魅了の魔術と認識しました」
キャラハンが魔具から視線を動かし、低い声で告げる。
「魅了ですか?」
カレンディアが確認するように復唱する。
「はい、誰からの術とは確認できませんが、魅了をかけた人物に好意を持っているはずです」
キャラハンは答えると、部下にウズデロイド王フランシスに結果がでたと伝えるように指示する。
美優もカレンディアも身に覚えがある。
諦めないといけないと思いながら、夢にまで見る人物。
忘れる事のできない人。
魅了によるものだと思えば納得がいく。
だから、身体が拒否したのだ。
好きということ自体が魅了によるものかもしれない。
だから、会いにも来ない。
放置しても、好意は無くならないから。
どんなに邪険に扱っても、キープしておける相手。
「バカにしてる!」
美優が手のひらを握りしめる。
すごく腹が立つのに、ルティンを嫌いにならない。これが魅了。
魅了されている限り、他の人を好きになることも出来ないかもしれない。
「師団長、魅了を解呪できますか?」
「魅了をかけた人物よりも強大な魔力であれば、可能だろう。
簡単ではないし、準備に時間がかかる。他人が魔術を壊すのだからな。
心配いらない、ウズデロイドは魔術において、どの国よりも優れている」
魔獣を生み出すほどに、とは言葉にしないキャラハン。
カレンディアは言葉もなく涙を流していた。
思う心だけは私のものだったのに、それさえ幻だった。
美しい王太子殿下。
それだけではない。
王太子であることに誇りを持ち、学問も剣術も魔術も誰よりも努力されていた。
真摯な姿に心打たれ、優しい言葉に心躍った。
その気持ちは嘘だったのかもしれない。魅了のせいなのか、自分の気持ちなのか分からない。
「カレンディア」
美優が、そっとカレンディアの肩を抱く。
「好きでしたの。誰よりも、何よりも。
ミユウ様にしたことは、決して許されることではありませんが、抑えられなかったのです。
実家の侯爵家がお咎めを受ける事も、自分が処罰されることも分かっていても、殿下を奪うミユウ様が憎かった。
あの気持ちは仕向けられたものだったの?」
大きな声ではない、けれど心が血を流しているような声。
肩を震わせて耐えるように泣くカレンディアに、美優は返す言葉もなく首を横に振るしかなった。
「女の子の心を弄んで、絶対に許さない」
美優の頭に、逆襲という言葉が浮かぶ。




