マルセウスの王子の力
マルセウス王国でも、ウズデロイドにずいぶん遅れるが赤い花の報告が入っていた。
ウズデロイドが占有した国の統治の為に、地方まで視察するのは知られていたから、田舎町に人が集まっていても注意をしてなかったのだ。
それが、最近ウズデロイド軍が駐留しているとの情報があり、進軍かと諜報を送れば、戻って来た報告は人食いの花。
国境線を挟んで、マルセウス側にも大きく広がった赤い花。
マルセウス側は人の住む地から離れているため、誰にも知られることなく広がったようだ。
友好国ではないウズデロイドから情報がくることはない。
赤い花が生物を搾取することなど知ることなく、先行隊が餌食となってしまった。
ダン!
王太子アーノルドが机を叩く。
「兄上」
ルティンも火も水も薬も効果がなかったと報告を聞いていた。
「ウズデロイドは、これを分かっていて軍を集めていたのだな。
だが、軍の退却がないということは、あちらも無策ということか。」
ふー、と息を吐きアーノルドが椅子に背を預ける。
「ルティン」
「はい」
「巫女はどうしている?」
美優が王宮を出てずいぶんになるが、婚約者にと望んでおきながら王太子は美優を放置していた。
ルティンにしても、フランシスが小屋に来ているのを知っていても焦ってはいなかった。
「巫女の力、ワンの力を試してみたいな」
アーノルドからは、美優の意志を確認するような言葉はでてこない。
「狩猟小屋を改築することを楽しんでいるようです。
ウズデロイドの王が訪ねてくるのが、気に障りますが、変化はないと報告がきてます」
護衛を兼ねて、情報収集の兵を美優のいる小屋の周りに配置してある。
それだけで、自国が披露した神獣、巫女を自由にさせているマルセウス。
「お前が最初に魅了をかけたのだろう?
私も謁見の時にかけてある」
アーノルドは表情も変えない。
それはマルセウスの王子にとって当然のことなのだ。
「巫女は我々から離れられないのだ」
魅了をかけてあるから、旅に出ても逃げる事はないという自信。
「兄上、ミユウが痛がることはしたくない」
「どうした?ほだされたか?
だが、女が我らにだく好意はこの容姿と魅了によるものだ。
王家とは、国を守る為にある。
巫女の血を搾り取るようなことはしないが、未知の魔の赤い花を根絶するために可能性があることはすべきだ」
「わかっております」
ルティンは兄に逆らう気はないが、美優は特別な存在である。
マルセウス王家の王子は誰もが、美貌と魅了の魔力を持って生まれてくる。
アーノルドもルティンも、自分が側に行けば、美優が喜んで迎えると思っている。
アーノルドはカレンディアも魅了で操っていると思っていたから、美優を刺すという事件を起こした時は心底驚いた。
反面、魅了をかけてあるから、カレンディアが暴挙を起こすほど自分を好きなのは当然だと思っている。
カレンディアの愛情を信じていないから、簡単に婚約者を変更とするのだ。
「そろそろ王宮に戻さねばならない。
私はここを動けないから、迎えに行ってくれるか?
巫女が、ウズデロイド王から情報をひきだせないかも探ってきて欲しい」
「わかりました」
ルティンは、兄に一礼すると部屋を出て行った。
閉まった扉を見つめながら、アーノルドは思い出していた。
新しい婚約者候補である美優ではなく、長い期間婚約をしていたカレンディアである。
目を閉じれば、美しいカレンディアの笑顔がうかんでくる。
だが、巫女の力を他の者に与えるわけにはいかない。




