狙われたのは・・・
ワンは手にした瓶を床に投げつけると、派手な音でガラスが飛び散った。
「何をする!
それを瓶に封じるのに、命を奪われた騎士がいるのだ!」
ヒューレッド侯爵が叫ぶも護衛に遠ざけられる。
瓶から飛び出た赤い花はうねうねと捩じって根を延ばしている、誰も触ろうとはしない。
その根から広がる葉に触れると、養分を取られるように生物は溶け始め、吸収されてしまうからだ。
「ご主人」
ワンが美優を見つめ、フランシスが大声を出す。
「止めるんだ! ミユウ!」
「なんでかな、わかるの。
こいつが恐い。食べたい、って聞こえてくる。
きっとこいつは、取り込んで溶かして食べちゃうだろうね」
美優が、テーブルの上に置かれていたペンを手に取る。
「おやめください!」
カレンディアが、美優からペンを奪い取ろうとするのを避けて、美優は指にペンを刺す。
プク、と滲み出てた血を1滴、赤い花に垂らすと、ジュゥと音がして花が枯れた。
花から焦げた匂いがたちあがり、茶色く干からびた残骸となった。
「やっぱり、私の血って、この世界の空気に触れないとダメなんだ」
外気に触れずに取り込めば大きな力となる。
美優の血肉を直接食べたワンのように。
外気に触れた血を取り込んだカレンディアは、美優の願いで生還した。
「そんなことさせない!」
フランシスが美優を抱きしめて、指の傷を癒そうとする。
「騎士の命が奪われたんだって?
他の人達は大丈夫だったの?」
美優は、この花がおそろしい勢いで広がっているとは知らない。
「陛下!
村が飲み込まれてしまっているのです。
広がりを止めることはできません」
ヒューレッド侯爵がフランシスの怒りを買う覚悟で、美優に応える。
「ねぇ、フランシス。
その村が無くなったのは私のせい?
逃げてもいいよね?
身体中の血を絞っても、広がりをとめられないかも。
血をとられるのは、いや」
「もちろんだ、他の方法を探す」
フランシスは、他の人間から隠すように美優を抱き込む。
「この世界の魔力じゃダメだから、私が呼ばれたの?
この世界を救う為の生け贄?」
なんか、かっこいい響きに残酷をごまかしているよね、美優が呟く言葉は、フランシスの耳に届く。
「そんな事はさせない。俺は、ウズデロイド王だ、出来ぬことはない」
フランシスが言っても周りは納得しない。
「陛下!
あの花は広がり続け被害は増すのです。駆逐する方法が見つかったなら!」
大臣の一人が声を出す。
フランシスは独裁者だが、意見を聞かないわけではない。
「花はすでに大きく広がっている。例えミユウの血が有効でも、全滅させるには全然足りないのは一目瞭然だ。他の方法でないと駆逐はできない」
フランシスのいうことは最もなことだが、大臣はそれで止まらない。
「先ほどの力を見ても、マルセウス王国で披露された巫女殿であると私も信じます。
されど、巫女殿も言われていたではありませんか。
あの花が巫女殿を食べようと思っている、と。」
大臣の言葉に、美優は背筋が凍る思いだ。
「なるほどな、ミユウは狙われるということだな」
あの花が、フランシスが全てを言わなくとも皆は分かっている。
「陛下、一つよろしいでしょうか?」
執務室に集められている学者の一人が、前に出て来る。
フランシスが頷いたのを許可と見て、学者は続ける。
「我々には未知の生物の植物です。植物で正しいのかもわかりません。
だが、植物ならば、根を延ばすだけでなく、種を付ける可能性があります。
種ならば、風にのり遠くの地で繁殖することも出来るのです」
「きゃー!」
反応したのは美優だ。
「私、手伝うから!
少しなら血を提供する!
あいつが近くで繁殖する前に、やっつけて!」
納得したように大臣が下がるが、フランシスは不満げである。
「俺はミユウに痛い思いをさせたくないし、血を流せたくない」
「なに言っているの!
助かるためには献血ぐらいするわよ!」
美優はフランシスに掴みかかる。
ウズデロイドの重臣達は、滅多にみれないフランシスの様子を見ているが、これを許すのは、それだけフランシスの想いが強いのだろうと分かっている。
「陛下」
と先にフランシスに声をかけて、トミーが美優に礼を取る。
「巫女さま。
トミー・ロウ・ビステアと申します。
隣の部屋で、お茶の用意をさせております。
巫女様、神獣様、侍女様、ご案内いたします」
美優はフランシスをうかがうと、フランシスは美優の手を取る。
「トミーは俺が信用している一人だ。
これから、美優に聞かれたくない話も出るだろう。
後で説明するから、隣で待っててくれ」
フランシスは、トミーに警備を厳重にするように指示して美優をカレンディアに預ける。
「ワン、お前がいると心配ないと思うが」
フランシスに言われると従うしかない。
国王の執務室に突然現れて、迷惑をかけたのは間違いないのだから。




