美優の役割
「あれは、俺が転移を許している者達だ。兵よ下がれ」
フランシスをはじめ、要人達の前に立つ兵士に指示を出す。
「それに、あれがその気になれば、このまま王宮など一瞬で吹き飛ぶだろう」
それは、神獣であると言っているのと同じだ。
「陛下」
フランシスの前に進み出たのは、宰相ヒューレッド侯爵。
「神獣は、マルセウス王国で披露されたと認識しております。
どうして、ここにいるのですか?」
この数日、誰もが赤い花対策で疲労困憊である。
赤い花の恐ろしい繁殖力は、村を出て広がっている。
それは、マルセウス側でも同様であろう。
寝ている時間もないというのが現状である。
そういう中に、他国の神獣が現れたのだ。
警戒などという程度ではない、フランシスに下がれと言われているが兵士達の緊張は戦場そのものである。
「マルセウスの間者でないと、言い切れるのですか?」
ヒューレッド侯爵は、フランシスに反論するのではなく、確認を求めているのだ。
ここにある資料は、赤い花対策の結果である。
それこそ、ウズデロイドの騎士や魔術師の命をかけた結果でもある。
それを守らねばならない。
ウズデロイドで最強の魔術騎士であるフランシスでさえ止めることの出来なかった赤い花の生命力。
「マルセウスが勝手に巫女と呼んでいるだけで、あいつはミユウだ」
フランシスの説明は、誰にも理解されない。
「残念ながら、どこの国のものでもなく、誰のものでもない」
「俺は、フランシスのところと念じたのだが、邪魔したようだったな。」
ワンが、美優の腕から降りて部屋の中を歩く。
「いや、疲れが出ているだけだ。少し休憩をいれた方がいいと言うことだろう。」
フランシスが、侍従を呼び茶の用意を指示する。
秘匿である資料を隠しもしないで、ワンを自由にさす。
ワンの後ろを美優、カレンディアと続く。
休憩と言われても、ウズデロイドのトップの集団である。
部屋から出るものはいない。
王が無条件で、受け入れている美優を探るように見ている。
有能でない者は、王の側にいられない。
ウズデロイドは、フランシスの独裁的国家と言っても間違いはない。
王の第一子であり、唯一生き残った王子。
後宮のあるウズデロイドでは、たくさんの王子がいたが、圧倒的な強さで他者を葬った王子。
戦争という手段で他国を制圧する常勝の王。
従順な民には恩恵を与え、腐敗を嫌う王。
「ごめんなさい、大変なところに来て。
渡したいものがあったの」
美優がフランシスの側に来ると、後ろでカレンディアが美しいカーテシーを披露する。
それだけで、前に立つ美優が威厳あるように見えてくるから不思議である。
「上手に出来たから」
フランシスの前に白いハンカチが出される。
ウズデロイド語を勉強したのだろう、名前が刺繍されている。
美優の視線が、フランシスの後ろにあるガラス瓶にいく。
それは、採取され魔力封じの瓶にいれられた一輪の赤い花。
まるで、花が目を持っているかのように、瓶の中で花が美優に向く。
恐い!
美優の動揺を感じたフランシスとワンが瓶に向かう。
ワンは人型となり、瓶を手に持つと皆の目に映るように高く掲げた。
「いやぁ!
恐い!」
美優が自分を守るように両手をクロスして腕を持つ。
「ミユウ様、落ち着いて」
カレンディアが美優に手を添え軽く揺さぶると、美優が赤い花から視線を反らしカレンディアを見る。
「だ、大丈夫。ありがとう。
あれが、食べたいって聞こえたの」
美優を食べたい、赤い花が言っただと?
フランシスは聞こえなかったが、美優が嘘をつく必要がないのは分かっている。
「ミユウ様、あの花が言ったですか?
私には聞こえませんでした」
部屋にいる全員の疑問をカレンディアが言葉にする。
「私が異世界から来たように、あれも違う世界から来たみたい」
だから、と美優が続ける。
「こちらの魔力とは質が違うから、大きなダメージを受けない」
泣き笑いのような笑みを浮かべて、美優が周りを見渡す。




