赤い花畑
敗戦国カラハンの北部地方には、甘い香りの赤い花が一面に咲いていた。
マルセウス王国に隣接する地域である。
戦後処理の為、元カラハン王国にウズデロイド王国から役人が送り込まれ、地方まで調査が入っていた。
小国ではあったが、鉱物資源が豊かで大きな港を建設できる立地もあり、戦後処理の構想がたっていた。
最初は、花の景色に美しいと思った。
敗戦国復興に派遣された役人は、その花が異常だと気づける優秀な人間であり、魔力を知る者が同行していることも幸いした。
村の中央まで花は咲き、家の軒先まで広がっていた。
だが、村には人の気配がなく、家畜の姿もなかった。
「待て、花の近くから離れるんだ!」
魔力を感じた役人が同僚たちに声をかける。
花の根は地中を広がり、異様な速さで芽を出すのを目撃すると誰もが緊張を高めた。
それは、すぐにウズデロイド本国に伝えられると、魔術者、学者、武官が送り込まれ詳しい調査が行われた。
それは魔力をもつ、肉食の植物であった。
フランシスは報告を受け、魔術騎士を中心とした討伐班を送ったが、焼いても凍らせても花の繁殖の方が強かった。
花は国境を越え、マルセウス王国にも凄い速さで根を広げていった。
フランシスも転移で視察に行き、広囲に魔術弾で破壊したが、地中深く潜っていた根がすぐに芽を出し再生をしてしまう。
花は広がった地で、生物を飲み込んでいく。
マルセウス王国の方でも、ウズデロイドに遅れたが対応が始まっていた。
だが、花が広がるのを防ぐことは出来ず、手をこまねいていた。
「最近、フランシスが来ない」
ポツンと美優が呟いた。
美優たちは、カラハンとマルセウスの国境を挟んで大変なことになっているなど知らない。
毎日のように来ていたフランシスが突如姿を見せなくなったのだ。
マルセウス王家の連絡係として頻繁に来ていたニナも来なくなった。
カレンディアに教えてもらいながら、美優は刺繍をしていた。
いつも、野菜やお菓子を持って来てくれるフランシスにお礼をするといって、美優はハンカチに刺繍をしていたのだ。
「ご主人、フランシスが使っている魔術陣を使う事ができるぞ」
仔犬の姿のワンが、出来上がったハンカチを持って行くか、言う。
「多分、これフランシスしか使えなくしているんでしょ?」
ウズデロイド王宮深部と美優の狩猟小屋を繋いだ魔術陣だ、幾重もの警備をして作ってあるのは間違いない。
「危険が迫った時は使うようにと、フランシスが精唱を教えて帰った。俺の魔力なら問題なく使える」
うーん、と美優は躊躇したが、ウズデロイド王宮に行く危険より、好奇心の方が勝った。
「すぐに戻ってくればいいか、カレンディアも一緒に運べる?」
「この中で1番魔力がないのは、ご主人だ」
仔犬姿のワンを抱いた美優とカレンディアが転移したのは、ウズデロイド王宮フランシスの私室ではなく、フランシスの執務室だった。
つまり、重臣達が集まって討論している最中の、ウズデロイド王の執務室だった。
「ミユウ!」
「何者だ!?」
沢山の声が同時に叫ばれ、警備兵が瞬時に動いたが、ワンの魔力に跳ね返された。
喧噪の中で、フランシスが叫ぶ。
「だまれ!!」
静かになった室内で、皆の視線が美優とカレンディアに集まる。
フランシスを守るようにトミーが前に出たのを、手で退けてフランシスが執務室に設置されている転移陣に向かう。
「ワン、何があった?」
危険が迫った時にと教えていたのだ、何かあったと思うのが普通だ。
「ご主人が、陛下が来なくって寂しいらしい」
ワンの言葉に表情が綻んだフランシスとは反対に、その場にいた人々は、犬が話すことに驚くばかりだ。
「もしや、神獣?」
マルセウス王国の神獣が、人語を有することは有名である。
「では、こちらが巫女様ですか?」
トミーが美人のカレンディアに視線を向けるが、答えたのは美優だ。
「寂しいなんて、ワンが言っているだけだから」
誰でも、美優が意地を張っているとわかる。




