マルセウスの王子
マルセウス王は、王子2人を前にして頭を抱えていた。
末の王子は、魔力を封じた牢に閉じ込めている。治癒魔術で傷は癒えたが、情緒不安定である。
「絶対に神獣と巫女を他国に攫われるような事になってはならん」
その為に王太子の婚約者と定めたのだ。
それが、カレンディアが美優を襲うことになり、デイルを追い詰めた。
王太子にしても、美優が婚約を嫌って逃げるとは、思ってもいないことだった。
おとなしい娘、逆らえはしないだろうと思っていたし、自分の美貌も王太子妃の地位も誰もが欲しがると思っていた。
「陛下、ニードルフ侯爵令嬢が巫女を傷つけ、さらに令嬢自身が巫女の力で蘇生したことは目撃者が多すぎ、隠しようがありません。
そうなると、デイルと同じように、巫女を傷つけて力を得ようとする輩が後を絶たないでしょう」
「王太子妃、王妃となれば最高の警護をつけれるという点でも、王太子の婚約者としたのだが、巫女には分かってもらえないようだな。
いかに神獣が側に居ようとも、安全とは言えまい。
アーノルド、そちの言うとおりである」
王が、王太子に追随するように言葉をつむぐが、表情は険しい。
「陛下、王太子殿下」
ルティンが、父上、兄上、と言わずに呼びかける。
「デイルは、巫女の血で拒絶反応がでたようなのです」
「どういうことだ?」
王太子は、分かっているのだろうが確認をしてくる。
「巫女の血で、全ての人間が魔力を得るのではないということです。
デイルが自身の大きな魔力で、治癒魔術を自身にかけ続けて生きながらえたと言ってました。
常人ならば、耐えれないという事で」
ルティンの言葉が終わる前に王が大きな声をあげる。
「何という事だ!
巫女の血があれば、強力な軍隊を作れると思っていたのに、軍を失くす可能性があるだと!?」
ルティンは、思わず王を睨むように見つめた。
この人は、美優から血を搾り取って、兵士に与えようとしていたのだ。
デイルが自身の力を巨大にしようとしたのと、何ら変わりない。
「陛下、巫女は守るべき存在です。
だからこそ、巫女も国を守るのです」
王太子が、王に釘を刺す。
「それは建前だ。
国を豊かにし、国民を安全に暮らせるようにするために、良い方法があれば当然であろう」
何をいまさら、と王は王子達に言う。
「それだからこそ、巫女は贅沢もわがままも許される」
王として間違いではないが、人間として間違っている。
ルティンは苦虫を潰したような顔をして、兄の王太子を見る。
「ルティン、神獣と巫女と旅をしたお前はどうだ?」
ルティンの視線に気が付いた王太子が問いかける。
「ミユウは普通の若い女性です。
力を与えることも、拒絶反応をさせることも、ミユウの望みではないでしょう。
巫女の身体に傷を付けるのは、神意に背くことだと思えます。
痛い、と苦しんでました。美優は襲われて、痛いと泣いてました。
豪華な生活を望んではいないから、王宮から逃げ出したのでしょう。
それを願う令嬢達なら、王太子の婚約者と言われて逃げだすはずがありません」
「だが、現実に我が国には脅威がたくさんある。
その典例がウズデロイド王国だ。次々と周辺国を制圧している」
王太子は、王に賛成ではないが反対でもない。
「巫女が我が国を愛し守りたいと願えば、神獣を使役し大いなる力を発揮するだろう。
巫女が自発的にすることに問題はおきないだろう。
だから、カレンディアが蘇生するような奇跡がおきるのだ」
王太子は強制はしない、美優の意志を尊重するとは言っても、力は必要なのだ。
ルティンも王子として生まれ、王族として教育を受けた。
国を優先する、それを教えられた。
自分の身なら犠牲にする、だが、美優を犠牲にすることは出来ない。
その気持ちが何なのかを、ルティンも気が付いている。
美優を見つけたのは自分だ。
美優が少なからず、自分を気にしていることも知っている。
兄の王太子と争う気はなかった。
美優を得ることは、王位に近づくことだから兄も婚約者を変えたのだ。
だが、兄が美優自身ではなく、美優の力を欲しているのなら・・・
マルセウスでは国の為に美優を婚約者にし、ウズデロイドでは美優の為に後宮を無くす。
それぞれの国が、美優を得る為に動いている。




