後宮の処理
「助けに来てくれて、ありがとう」
小さな声で、フランシスに身体を預けた美優が言うから、フランシスもピクンと身体が跳ねる。
隣の部屋に行くだけの移動なのに、美優は寝てしまった。
今まで、意識を持っていた方が不思議なぐらいだったのだ。
ベッドにそっと降ろされた美優は、フランシスの体温がなくなりプルと身体を震わす。
フランシスが口元に笑みを浮かべ、そっと上掛けを美優にかけてやる。
フランシスの後ろに付いて来て、控えているカレンディアを見る事もなく命令を下す。
「しばらく目が覚めないだろう。ここも危険だ、一番はミユウの危機感のなさだがな」
「ミユウ様は異界から来られたと言われてました。平和な国と言われてました」
カレンディアも美優の力が異質で、この世界のものではないと分かっている。
フランシスが美優の頬に、体温を確かめるように手を添える。
その横顔が優しく見えて、カレンディアの胸が苦しくなる。
ウズデロイド王が美優を大事に思っているのが伝わってくる。
自分は何故、王太子に愛されていると思っていたのだろう。
王太子妃に相応しい家柄で教育も受けているから、大事にされていただけだと、今ならわかる。
大好きだったから、そう思いたかったんだ。恋してたから。
「一旦戻るが、ミユウの栄養になるものを持ってこよう」
そう言って、フランシスは転移陣に足をいれる。
王宮に戻ったフランシスを待っているのは、側近のトミーである。
「陛下、急に転移されてどうされたのですか?
仕事が溜まってます」
フランシスが急に転移してから、ずっと待っていたのだろう。
「悪かった、心配かけたな」
フランシスが執務机に着くと、ドン、とうず高く書類が積まれる。
「すごいな」
「陛下が、後宮の調査を言われましたので、書類が増えております」
机の前に立つトミーが、書類を分けておく。
「これか、後宮を解散するぞ」
「陛下、あれは貴族を抑えておくのに必要なのです。
早く次代を作ってください。少しは通ってください」
とんでもない、とばかりにトミーが反論する。
「あれがあると振られるのだ」
書類を読みながら、フランシスが言うから、トミーは一瞬聞き流しそうになってしまう。
「振られるって、意中の令嬢が!?
なんと喜ばしい、さっそく部屋の用意を」
「待て、後宮がないことがスタートラインで告げる事さえできてない」
ウズデロイド王国では代々の王に後宮があった。
「後宮は王の威厳の一環であり、貴族のバランスを保つためにも必要なのです」
バサッ、書類の束がサイドテーブルに放り投げられる。
トミーがギョッとして姿勢を正す。
「俺は後宮を解散すると言ったぞ」
「申し訳ありません、言い過ぎました」
トミーが礼をして、胸に左手を置く。
「いや、お前の言い分も分かる。
だが、元々通いもしない、費用だけがかかる存在だったのだ」
言いながらも、フランシスが書類を処理する手を止めない。
トミーは隣の部屋に待機している侍女に、お茶の用意をするように伝える。
侍女がお茶の用意のワゴンを押して入ってくるが、トミーはワゴンだけ受け取り、自分でお茶を淹れだした。
カチャン、と机の端にお茶の入ったカップを置かれて、フランシスが顔をあげた。
「いい香りだな」
カップを口に当てながらも、もう片手は書類を持っている。
「陛下が、執心されるほどの美しい姫君なのでしょうね」
トミーの言葉に、フランシスは噴き出しそうになり、お茶をゴクンと飲み込む。
「いや、美しいというか・・」
フランシスの歯切れが悪い。
「陛下?」
「そうだな、どこがいいんだろうな?」
思い出したのか、口元を片手で覆うフランシスを見て、トミーは本気だ、と悟るしかなかった。
後宮の解散は最優先課題と認識したが、女性達の実家の扱いとか頭が痛いと言わざるを得なかった。




