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美優のささやかな報復

ダン!

と音を立てて、デイルが床に転がる。


フー、と荒い息をワンが立て、牙をむいている。


美優はカレンディアの手を離れ、フランシスの横をよろよろ進む。

「ミユウ」

後ろに隠れていろ、とフランシスが手を出すが、それを振り払い覚束(おぼつか)ない足取りで歩む。


なにをするんだ、とルティンが美優を見つめる。


美優はワンの毛並みに手を添えると、ワンに隠れるようにデイルの前に立った。


ガシッ!

美優が、うずくまったままのデイルを蹴った。

それは、大きなダメージを与える程の力はないが、美優の精一杯の反抗である。

しかも、もしもの時はワンに助けてもらうために、ワンの影から蹴っているのだ。


「痛かった、痛かった」

美優が自分の首に手を添え、デイルに訴える。

「私、死んじゃうかもって恐かった。こんな力なんて誰も幸せにしない」


うう、と(うな)り声が聞こえて、デイルが身じろぐと、美優は飛びのくようにワンの後ろに隠れる。

「絶対に貴方の思い通りなんて、させないんだから」


フランシスもルティンも静かに美優の行動を見ているのは、側にワンがいて美優の安全が保障されているのと、怯えながらもデイルに向かう美優が眩しいからだ。


「申し訳ない、デイルのしたことは許されることではない。

巫女に傷つけるなど、神の怒りにふれる行為である」

デイルの側にいるルティンが、美優に詫びの言葉を言う。


「ルティンに謝ってほしくない。

悪い事をしたのはデイルなんだから、デイルが謝らないといけない。

そんなのだから、デイルが我がままで、何でも手に入れようとする自己中になったのと思う」

倒れているデイルが聞こえているかはわからないが、ルティンには届いている。


「そうだな。

僕たちがデイルを甘やかしたんだ。わかっていたが、面と向かって言われるのは初めてだ」

ルティンは、美優に笑顔を向けて嬉しそうでさえある。


様子を見ていたフランシスが後ろから美優を抱き上げる。

「フランシス!なにするの!?」

美優が驚いて声をあらげるが、フランシスは何も言わず、美優を横抱きにする。


「俺が、その男を殺したいのを抑えているうちに、そいつを連れてここから出ろ」

美優には答えなかったが、フランシスはルティンに言う。


「ミユウは我が国の巫女だ、美優も連れて帰る」

国として、神獣も巫女も長く王宮を離れているのは、好ましくないのだ。

ルティンが手をだすが、美優は手を取らない。


「ミユウ?僕の家に行くんだよ?マルセウスの王宮へ」

ルティンは美優がフランシスに抱きかかえられているのに苛立つ。

美優がデイルのせいで傷を負い、大量出血して立つのも危ない、とは分かっているが、それでもだめなのだ。

フランシスとルティンの視線がからまる。


「ルティン殿下、デイル殿下を馬に乗せましょう。私が手伝います。

ここに置いておくのは、ミユウ様も不安でしょうから」

ニナが駆け寄ってきて、ルティンに言う。

その言葉で、ルティンも冷静になる。


ニナとルティンを見るのが嫌で、美優は頭をフランシスの胸に預けた。

「眠いのだろう、ずいぶん血を失ったから」

治癒魔術で傷を治しても、失った血液が全てもとになるわけではない。

カレンディアがフランシスの後ろに付き添い、フランシスに抱き抱えられて部屋を出て行く美優を見るルティンは静かに目を伏せた。


「馬は昨日の所に繋いである。

ニナ、馬を小屋の前まで連れて来てくれ」

ニナが小屋から飛び出していくと、ルティンはデイルの脇に手を差し入れ起こした。


「気が付いているのだろう?

ワンはお前を殺すことも出来た、それをしなかったのはミユウの意志だ」

ルティンの言葉にデイルは反応を返さない。


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