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デイルの道

「デイル殿下」

すぐに立ち上げり、カレンディアがカーテシーをする。

カレンディアは、貴族令嬢としての心得が染みついている。


デイルは断りもなく、空いている席に座ると、机の上のパンに手を伸ばした。

「小さな狩猟小屋と聞いていたのに、ずいぶん改造されて部屋が出来ているね。パン焼くような石窯も作ったのだね?」

うまい、ともう一つ口に入れる。


「しかし、料理なんて王妃には必要のないものなのに」

いかにも無駄とばかりにデイルが言う。

「たしかに旨いが、王宮の料理人の方が旨い」

ダン、と机に手をついて、デイルが美優に身体を寄せてくる。


ヒッ、と息を飲みこんで美優はジリジリ、身体をデイルから遠ざけて横に座っているカレンディアに寄っていく。

デイルはそれが分かっているから、笑みを深めてさらに美優に詰め寄る。

「今日は、結婚を申し込みにきたんだよ」

自分の美貌を有効に使うべく、デイルは美優に微笑みかける。


「お断りします。今は結婚なんて考えられないので」

美優が躊躇なく断っても、デイルは驚きもしない。予想していたのであろう。

「君も、兄上の権力が好きなんだね。

王太子の婚約者が魅力的なんだろう?」

「そんなこと考えてません!」

美優はギュウとカレンディアの手を握ると、カレンディアも握り返してくる。


「デイル殿下、僭越ながら申し上げます。

ミユウ様を誘導して、思うような言葉を取ろうとされても、私がついている限り、それはありえません」

カレンディアが、デイルを(にら)むように言葉を(つむ)ぐ。

王妃教育を受けたカレンディアは、デイルの意向に気が付いていた。

美優を激高させ、デイルにとって利になる言葉を引き出すつもりだったのだ。

カレンディアがにっこりと笑みを浮かべると、デイルにお座りください、と声をかける。



ワンが飛びつくのが先か、デイルが美優の手を引っ張るのが先か、一瞬の事だった。

美優の首元にはデイルが握りしめた短剣があてられている。

「お前の血を浴びれば、僕はワン以上の魔力を得るのだろう。楽しみだな。

だが、次々作られても困るからな。僕で最後だ。

結婚を受ければ大事にしてやったのに。死んでしまえ」

デイルの手に力が入り、美優の喉元に薄く斬れ筋が入り、血がにじみ出る。

「イタイ・・」

震える美優の声が響くが、ワンもニナもカレンディアもデイルを刺激しないように動けない。


カタン。

転移陣のある隣の部屋から音がする。

フランシスが来たのだとわかる。

「フランシス」

(つぶや)きのような小さな音が美優の口から零れる。

首元の血を指ですくうと、デイルは舐めた。


「ぐえぇえぇえ!」

身体の拒絶反応に、デイルが身を屈めて苦しみ始めたが、その時に短剣に力が入り、美優の喉に深い傷を付け、吹き出た血が口に入ったようだ。


ワンがデイルに飛び乗り、両手を床に張り付ける。

カレンディアが美優うを抱きしめ、隣の部屋から飛び込んで来たフランシスが、美優に治癒魔術をかける。


床に倒れ、動きを封じられているデイルが身体をよじって苦しんでいる。

「ミユウに傷を付けて、俺が殺してやる。

だが、古竜の肉を与えた獣も僅かしか生き残れない。ミユウの血も同じだろう」

美優を治癒しながら、フランシスが憎らし気に言う。

ワンも同じなのだろう、デイルの動きを封じる以外は魔術を使わない。


美優の傷が塞がると、美優はフランシスの手に掴まってデイルを見る。

デイルの方は、苦しみでのたうち回っているので、美優の視線など気が付かない。


「絶対にお断りよ。

顔が良ければ、女が()り取りなんてバカにしないでよね」

美優はゴホゴホ、とせき込み、痛い、と喉を手で押さえる。

「ミユウ様」

カレンディアが、美優を止めようとするが無駄に終わる。

「私は負けないから」

話すと痛いけど、もう流されないと決めたのだ、自分で言うと決めたのだ。

「殺されたって抵抗する」


シュー、シューとしてた息の音がなくなって、デイルが動かなくなった。



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