美優とルティンのすれ違い
馬を用意しながら、ルティンはニナに指示を出していた。
「ウズデロイド王には要注意だ。
兄上の治世を僕は支えねばならない。大国ウズデロイドがこれ以上力を持たないようにする。
僕が常に側にいるのがいいのだが、そういうわけにもいかない」
ルティンは美優がカレンディアに刺されて、血濡れの姿を思い出していた。
それなのに、力を振り絞ってカレンディアを助けた。意識を失くして倒れた美優は身体が冷たくなって、何度も息をしているかと確かめた。
「絶対にケガをさせてはならない」
ルティンが美優を大事に思っているのをニナは分かっている。
旅をしている時も、常に美優の話だった。
「同じことを、ウズデロイド王も言われてました」
「そうか、あいつがそうでも周りもそうとは限らない。ウズデロイドと我が国はいつ戦争に突入してもおかしくない。静観状態というべきか」
木にかけた灯りが、ルティンとニナを照らす。
「ワンがミユウを守りぬくだろうが、油断はするな。すぐに連絡をよこしてくれ」
そう言って、ルティンは馬に乗る。
ちいさな掛け声で馬を蹴ると、あっという間に森の暗闇の中に消えて行った。
ニナは、ルティンを見送ると小さな溜息が出る。
「殿下はミユウのことばかり」
そんなの分かっている。でも自分だって若い女性だ、少しは気にしてくれないのか。
側室ならば、身分が低くともなれる。
つい、そんな事を考えてしまう。
ガチャ、扉が開く音で美優とカレンディアが、入って来たニナを見る。
「殿下は帰られたの?」
カレンディアの問いかけに、ニナは頷いて、明日また来られるとだけ答えた。
美優はニナから目をそらす。
それだけの話でずいぶんゆっくりなのね、その言葉が口から出そうで、そんな自分がみじめに思えた。
「今日はルティン殿下が来られて驚きました。よくここがわかりましたね」
ワンの魔障壁で、魔術による捜索では見つけられないはずなのだ。
カレンディアが、分かっていながらニナにきく。
「私は軍に所属する魔術騎士です。それは今も変わりません」
「貴女の立場は尊重するつもりです。
もしも貴方が、ミユウ様に不都合をしいるようなら」
「カレンディア、いいよ。ニナも難しい立場なんだよ」
カレンディアがニナを問い詰めるのを、美優は止めるが、聞きたいのはそんなことではない。
暗闇の中で、ルティンと何していたの?
「もう眠くなったから、早いけど寝ようかな」
美優の言葉を受けて、ワンは仔犬の姿になり、美優のベッドの足元で丸くなる。
ルティンが私に興味もつのは、魔力だけなのかな?
否定をしたいけど、カレンディアみたいに綺麗ではないし、ニナのように魔術が使えるわけでもない。
眠気はこなさそうで、寝返りをうってみる。
やっぱり、ルティンの事が気になる。
暗闇の中で、ルティンはニナの頬に手を添えていた。それから、どうするつもりだったのだろう?
考えたくない。
ルティンに何度も微笑みかけられた、その笑顔がニナに向けられる姿を想像してしまう。
仕方ないことだ、人の心は自由だ。
チクンと胸が痛い。
もしルティンがニナを好きでも、神獣の巫女が望めば・・
バカみたい、枕を握りしめて顔を埋める。




