美優>フランシス
おかしい、フランシスは思っていた。
自分は類まれな巨大な魔力をもち、文武に秀でて、部下や重臣達にも恐れられている王だ。
それが、年下の女の子から説教されている。
「王様のくせにワガママ言うんじゃないわよ!」
フランシスの前に仁王立ちしているのは、美優である。
「後宮とは王家の繁栄を招くために、血筋、容姿に優れ、教養高い令嬢が王や王子の寵愛を得る場所ですよね?
国の安定を図る為に、政治的な意味合いの令嬢もいるはずです。
そんな後宮を簡単に解散などしたら、貴族や王族の反感を買うに決まってます」
どうして、私が後宮の主の王に説教をしないといけないの、と美優はうなりたくなる。
「まるで、後宮を見てきたかのように言うな」
笑い声を噛み殺しながらフランシスが、美優に感嘆する。
「俺は父の第一王子として生まれた。後宮には母の違う兄弟がいたが、いつの間にかいなくなっていたな。
俺は魔力が群を抜いて多く、武芸も軍人に引けを取らない、正妃である母の後ろ盾もあったので生き延びただけだ。それが後宮というところだ」
「いつの間にか、って・・」
口を両手で押さえて美優はフランシスを見る。
「俺の後宮はあるが、怖くていけないさ。
一度でも関係したら、誰の子かわからない王子を押し付けそうな女ばかりだ」
「すごいね、後宮って! ドロドロだー。
フランシス、よく生き残ったよ。魔力すごいものね、当然か。
でも、それでこうやって知り合えたのも縁だよね。嬉しいよ」
チッ、と舌打ちするフランシス。
「普通、ホロッとくるだろ?女なら。
お前はそういうやつだよ。他にはいないな」
コーヒーのお替りと、カップを前に出すと、美優がカレンディアからポットをもらって注ぐ。
ニナとカレンディア、ワンが一緒に食事をしているが、話には加わらない。
「これを飲んだら帰る。ここには俺が眠るベッドを置くスペースはないようだ。
明日またくるよ。
ミユウの料理は上手いからな」
早速、転移陣を有効利用するようだ。
転移陣に足を入れる前に美優がフランシスに声をかけた。
「フランシス」
「なんだ?」
「ウズデロイドが制圧した国は、貴族は弾圧されているけど、国民は税金が低くなり国に活気が出て喜ばれていると聞いた。
この前行った王都も、たくさんの国の人が交流していた。
凄いね、フランシスは」
フランシスは背中を向けたまま笑う。
「俺は無能は嫌いだ。有能な貴族は重用しているぞ。
無能だから賄賂をしたり、税金を上げようとするのだ」
ヒラヒラと手を挙げて、フランシス転移陣に入り消えた。
「それをするのが難しいことだって、言ってるんだって」
ポツンの呟く美優の横にカレンディアが来る。
「ミユウ様、私はウズデロイド陛下が激高されても当然のことをしました」
胸の前で両手の指を組むカレンディアは、フランシスが消えた転移陣を見ている。
「そんな私に、ミユウ様は魔力を消えかかっていた命を繋ぎ止めてくださりました。
先ほどは、ウズデロイド陛下から私を守ってくださりました」
カレンディアは、美優の前に膝まづくと、美優の右手を取り、その甲にカレンディアの額を押し当てる。
「カレンディア・フィアナ・ニードルフの永遠の忠誠を誓います」
アーノルド王太子殿下が大好きだった。あの人の隣に立てるよう努力してきた。
すぐに忘れることは出来ないだろうけど、今はミユウ様の方が大切だと切に思う。
カレンディアは変わってしまった自分をわかっていた。
カレンディアと美優の様子を、複雑な心境でニナは見ていた。
騎士である自分こそ、守るべき巫女である美優に忠誠を誓ってもおかしくない。
だが、ここに居ても自分はマルセウスの魔術騎士であると自負している。
マルセウス王国から逃げている美優の側にいて、マルセウス王国の騎士でいようとしている矛盾。
国には家族も友人も仲間もいる、斬り捨てることなど出来ない。
カレンディアの誓いを羨ましく見ながら、自分には出来ないとニナは思い知らされた。




