確執
バサバサと音を立てて書類が散らばる。
美優たちが、王宮を出て2週間になるが、依然足取りはつかめない。
アーノルドが散らかして落とした書類をルティンが拾う。
「兄上、兵達も懸命に探してます。ミユウはやがて見つかるでしょう」
「悪かった、わかっている。
デイルからは、連絡が入っているか?」
「いや、あいつは姿を消したままだ」
デイルは、美優を探すことを優先したのだ。ワンの姿は目立つ、すぐにわかると思っていたが、結果は逃げられてしまったということだ。
「あいつは野心がある、ミユウを見つけてどうすると思う?
僕は王太子として、ガマンしているのだ。僕こそが探しに行きたい。
一番に見つけるのは、自分でありたい」
アーノルドが歯ぎしりせんがばかりに、言葉を吐き捨てる。
「ルティン、すぐに追ってくれ。デイルがミユウを手に入れる前に」
「兄上、それは分かっていて、僕はここにいるのです。
ミユウを王太子妃に据えるなど間違ってます。あの子は王妃として立つことは無理だ」
ルティンこそ、すぐに追いかけたいが、兄である王太子を放置はできないから残っているのだ。
「ニードルフ侯爵家を処分されるおつもりでしょうが、ミユウが刺されて逃げ出したというのは隠さねばなりません。カレンディア嬢が生き返ったなど、ありえないことなのですから」
そんな事が知れれば、民も貴族も我先にミユウを追いかけるだろう。
殺して、その血を得ようとする者もいるかもしれない。
「言われるまでもない、何もなかった。ただ、婚約が解消されただけだ。侯爵家にもそれで納得させた」
カレンディアのしたことを思えば、侯爵家が反論できることはずがない。
「それでもだ、マルセウス王家が巫女を得なければならないのだ。それはデイルであってはならない」
デイルが王子として兄を支えようとするならば、と考えてアーノルドは首を横に振る。
「デイルは僕より、才能があるのかもしれない。だが、魔力が強い、知識が深い、それだけではダメなのだ。
だからこそ、さらに力を得ようとするのだろうな」
ルティン、とアーノルドは声をかけて、いったん区切った。
「巫女を守れ、それを最優先にするのだ。何者よりも」
アーノルドはルティンを見つめる。
デイルよりも、ミユウを優先させろ。デイルの命よりも。
ルティンは声を出さずに返事をすると、王太子の執務室を出て行った。
可哀そうなことをした、カレンディア。
王太子の中に、在りし日のカレンディアの笑顔が浮かんだが、それだけだった。
ガサッ、と隣の部屋から音がして、ワンは慌てて扉を開けた。
「何をなさっているのですか?」
そこで床に何かを描いている男を見つけて、ワンは声をかけた。
「ちょっと待ってくれ、もう少しなんだ」
魔術陣を描き終えて、男は立ち上がった。
「久しぶりだね、ワン。
君達だろう? 俺の研究室を破壊してくれたのは?」
そこにいたのは、フランシス・リー・ウズデロイド。
「ここは遠いからね、転移陣がないと頻繁に来れない」
「陛下、どうしてここがわかりました?」
魔障壁で、感知されないように防御してあるはずだ、とワンは確認する。
「ワンが魔力で防御壁を作ったろう? あれだ。
ワンの魔力には、どうやら俺の魔力が混じっているらしい。
だから、ここにいると俺には分かった。
あの研究所で作られた魔獣が君だな? どうしてだか、神獣と呼ばれるような大きな魔力を持った」
そう言ったフランシスは、ワンに馬乗りになっていた。
ダン!
ワンが魔力でフランシスを吹き飛ばすが、着地でふらついたもののフランシスは体制を持ち直す。
「お前は、ミユウを襲ったのか!血を飲んだのか!」
叫ぶほどの大声に、美優も出て来た。
「フランシス? 何してるの!?」
美優は、抵抗もせずフランシスに殴られているワンを庇うように走り寄る。
「やめて! フランシスやめて」
そう言って抱きついたのは、ワンでなくフランシスの方だ。
自分が抱きつかれると思ってなかったフランシスは、動きを止める。
「違うの、もうワンは私を襲わない。あの時は魔獣だったから、わからなかったの」
魔獣を作ったのはフランシスだ、美優がワンを庇って言う事も理解できる。
フランシスは美優を離すと、ワンを開放した。
そして、ミユウの後ろに立つカレンディアを見ると腕を振り上げた。
カレンディアに触れることの出来ない距離なのに、カレンディアは後ろに倒れた。
うう、と小さなうめき声をあげている。
「フランシス何をしたの!」
美優が今度は、カレンディアに駆け寄ろうとするのを、フランシスは美優の肩を抱いて離さない。
「ミユウを傷つけた、それを許すことはできない」
「フランシスのばか!!」
美優がフランシスから逃れようと暴れる。
「だが、ミユウが助けた命。2度はないと思え」
フランシスが美優を自由にすると、カレンディアに駆け寄り起こしている。




