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美優の逃亡

マルセウス王の元に国の重臣が集まっていた。

「この目で見ました。

死にかけていた、いや、死んでいたかもしれないニードルフ侯爵令嬢が息を吹き返すのを」

状況を説明しているのはアーノルド。ルティンとデイルは横で聞いているが、その表情はアーノルドとは対照的だ。

二人とも思いつめた表情だが、うちに秘めた思いは反対である。

ルティンは美優を助けたいと思い、デイルはアーノルドよりも早く手に入れねばと思っている。


「神獣の力の源は、巫女であると言えるでしょう。

それは、巫女の血だ。その血があれば、神獣を作る事が出来るかもしれない」

「兄上、ミユウから血を搾り取るというのか!?」

ガタンと大きな音を立ててルティンが立ち上がる。


「落ち着け。それを他国にされる訳にいかないと言っているのだ」

他国とはウズデロイド王国を指しているのは明らかだ。いつ開戦してもおかしくない状態なのだから。

王都で見つかった転移陣は、ウズデロイドの兵士を送り込むためであろうと思われる。

陣にはウズデロイドと分かるような文字はなかった為に、確定はできない。

「ルティン、あれを平凡な娘というか?

ニードルフ侯爵令嬢に魔力を与えていた時は、神々しいばかりだった。

あれを美しいというのだ、誰もが欲しがる」

アーノルドが溜息と共に言葉にすると、ルティンは椅子に座り直す。








「ワン、ミユウは目を覚まされましたか?」

ニナが寝室の扉を開けて、ワンに話しかける。

「いや、ご主人も令嬢も眠ったままだ」

力尽きた美優だけでなく、一度は目を開けたカレンディアも眠りについている。


「ワン、あれはミユウの力なのだね?

血の付いた剣を使ったのは、ミユウの血が必要だったから?」

ニナの問いかけを否定しないワンは、それが答えと言っているのと同じである。

「すごいな」

ニナは、魔術騎士として美優の力には羨望さえ感じる。


「ニナ、手伝って欲しい。扉の外の警備はどうなっている?」

ワンがニナを部屋の中に呼び寄せる。

「物凄い数の兵士が警備に当たっている。扉からは出れない。

窓の外も巡回しているはずだ」

両手を上に向けて、ニナがワンに言う。


「ご主人の力を知った人間は、ご主人の力を欲すると思う」

ニナは頷いて、ワンに応える。

「だが、普段のご主人は力がない。それはニナもわかるだろう?」

一緒に旅をして、美優に力を感じたことはなかった。

ワンの言う通りだと、ニナも思っている。


「ご主人の力がでるのは、命の危機がある時だ。

令嬢に剣で刺されて出血が多かった。魔力が命を守る為に増幅したのか、他の何かかはわからない。

だが、周りがご主人の魔力を欲するとしたら、命が危険と感じるような状態にさせるだろう」

イタイ、と言っていた美優、その姿を思い出してワンは苦しくなる。

「ご主人が何を思って、この令嬢に力を与えたかはわからないが、力を皆に見せつけてしまった」


「命の危機?

それがミユウの魔術が発動する条件だとしたら、使うべきではないよ。

何を手伝えばいいの?」

ニナが、ベッドで眠っている美優を覗き込む。

「ご主人の魔力がないと、俺は転移できない。

だからご主人を背に乗せて、王宮から逃げ出そうと思う。

令嬢も連れて行く、道案内をして欲しい」

「それは、軍を裏切れということだ」

「そうだ、無理強いはしない。出て行く我々を少しの間だけ見逃してくれればいい」


「ああもう! 分かっているくせに。

大きな神獣の姿になったワンの背に乗せるといっても、動けばずり落ちてしまうではないか。

私が一緒に乗って、押さえないとダメだろう?」

ちょっと待て、と言って、ニナは荷造りを始めた。

「悪いが路銀の足しに、ミユウに与えられた貴金属を持って行こう」



部屋の中で姿を変えたワンの背に、美優とカレンディアと荷物をくくり付け、ニナがまたがる。

ガチャンッ!

テラスに出る扉のガラスを割って、ワンが飛び出す。

外に出た途端、ワンの身体は大きくなっていく。

最初は3人で乗るのが精一杯だったワンの背は、ワンが大きくなることで余裕ができた。



近衛隊であろうか、警備の兵士が集まって来るが、ワンの姿を見て、一瞬(ひる)む。

部屋の外は大勢の警備兵が動員されていたが、ワンは軽々とその上を飛んでいく。

兵士達も神獣に傷を付けるわけにはいかず、ワンが逃げる気になれば、成す術がない現状であった。


アーノルド達もそれは分かっていたが、ミユウの意識が戻るまでは強行しないだろうと考えていたのだった。



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