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王太子の婚約者

デイルは思わず舌打ちした。

難民を扇動しているのは魔術師に違いない。描かれた転移の魔法陣は完璧であった。

魔術師を大量に導入するウズデロイドの戦力がどれほどのものか、簡単に想像できる。


兄の王太子に報告しながら、顔を見ると同じ表情をしている。

兄も同じことを考えているに違いない。

「神獣の力がいかほどのものか、まだわからない。

だが、神獣がわが国にいるというのが大事なのだ」

アーノルドは、デイルの報告書を手に取りながら、机に(もた)れるように立つ。

「お前は優秀だが、周りが見えていない。野望は強そうだがそれだけではダメなのだ」

お前など怖くはない、とアーノルドの瞳は言っている。

「王の許可を得た。カレンディア・フィアナ・ニードルフ侯爵令嬢との婚約は解消され、巫女姫ミユウ・ヤマモトが王太子妃となる」







「返して! アーノルド様を返して!」


美優は王宮に部屋をあてがわれ、ニナにこの国の歴史を教えてもらっている時だった。

豊かな金髪、青い瞳に整った顔立ち、豪華なドレスで部屋に飛び込んで来た令嬢に、美優がいだいた思いは、本物のお姫様だ、だった。

表の警備を無理やり通って来たらしい、後ろから追いかけてくる。

警備兵も躊躇するほどの家の令嬢なのだろう。


護衛としてついているニナも相手が令嬢という事で、一瞬躊躇した。

ドン、と音で美優の身体がのけぞった。

令嬢が美優に体当たりしてきたからだ。


「返して! あの人を! ずっと見てきた、私の幸せを返して!

貴女なんて、あの人を好きでもなんでもないくせに!」

涙を流しながら叫ぶ令嬢。


美人って、こんな時でも綺麗で得だな、そんな事を美優は思ったが、口からでた言葉は別のこと。

「イタイ」

美優の横腹に短い剣が突き刺さって、血が流れ床に着こうとしていた。

ポタ、ポタ、床に血が(したた)っていく。


「ミユウ様!すぐに、すぐに」

ニナが治癒をかけようとするが、血が止まらない。

ニナも貴族令嬢、美優を刺した令嬢の顔は知っている。

王太子の婚約者、ニードルフ侯爵令嬢カレンディア。美しさも知能の高さも他の令嬢達とは一線をひくほどの差があり、魔力も大きく魔術の知識深いと聞いている。

「王太子の婚約者であられる方が、何故こんな?」


「解消された。

その女のせいで。王家には巫女が必要なんですって」

ねぇ、どうして? とカレンディアが美優に問う。

「貴女、アーノルド様が好きなの? 王太子妃として支えていけるの?」


「ちがう、そんなこと望んでない」

「ミユウ、しゃべらないで、血が止まらない!」

ニナが美優の傷を抑えようと魔力を送るが、傷は(ふさ)がらない。

「ニードルフ侯爵令嬢、まさか呪いを?」


兵士がカレンディアを取り押さえようとするが、カレンディア自身の魔力で近寄ることができない。

「私からアーノルド様を奪う女に当然よ」


美優には、ニナの言う呪いが何か分からないが、カレンディアが呪いを剣にほどこしたせいで、治癒魔術がきかないというのはわかった。


「望んでない、って?

そのドレスも食事も全てマルセウスの民の税で与えられているのに?」

正しく王妃教育のされたカレンディア。


美優の身体が光り、ワンが転移陣なしで部屋に現れた。

「ご主人!」

美優に刺さっていた短剣が、ゴトンと抜け落ち床に血の跡を付ける。

光る美優の手が触れると、傷は塞がり、消えていく。


これが神獣の巫女と言われる力。

呪いさえ消し去る力。


ゴボッ、カレンディアの口から血が噴き出し、倒れ落ちた。


「ニナ、あの人が!?」

傷口に手をあて、顔をあげる美優。

「呪いは、おのれの魔力以上の力を使う魔術。

魔力の代わりに命を使います」


「アーノルド様」


カレンディアはもう動かない。

どこからかの声は、美優以外には聞こえなかったようだ。


美優の傷は消えたが、血を流し過ぎた。一人で立っていられず、ワンに支えられている。

もう目を開けていられない、すぐにも眠りに落ちそう。

でも、放っておけないことがある。

美優の流した血だ。

「ワン、血の処理を」


ワンが指先を滴った血にあて、吸い取るところを見たのは、騒ぎに駆け付けて来た王太子、ルティン、デイル達。


「それは何だ!?」

大声をあげたのは、デイル。

「今、ワンの魔力が大きく跳ねたな」


デイルが感じた事は、王太子アーノルドもルティンも気が付く。


カレンディアが倒れ、兵士達がその身体を確保するが、それに目を止める王子達はいない。

まるで、そこにカレンディアがいないように、王子達はカレンディアの横を進む。

それでも、アーノルドはカレンディアをちらりと見たのだ。だが、そのまま美優の元に向かう。


やめて、その人を無視しないで。

美優の心は嵐が吹き荒れる。


「床の血はミユウのだね?

ミユウの服が血まみれだ、治癒したのだね?」

美しい王子の瞳が輝く。

それは、アーノルドか、ルティンか、デイルか、もう誰の言葉でもいい。

「だから、ご主人なのか」


「いやー!!」

美優の悲鳴が響いた。


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