戦争
ウズデロイドが侵攻したのは、同じく国境を接していたが、マルセウスの隣国カラハン王国であった。
農業国カラハンが大国ウズデロイドに敵うはずなく、すぐにも王都が落とされると思われたが、一月経っても王都を落とすことはなかった。
カラハン王国では、ウズデロイドに占領されると国民は農奴とされ、重い税の下で圧制を強いられると噂が流れ、カラハン王国から大量の農民が難民となって、マルセウスに押し寄せていた。
マルセウスでは、大量の難民を受け入れる意思はなく国境封鎖に兵士を配置し流入を止めようとしたが、阻止することは出来なかった。
難民たちはマルセウスに逃げても暮らすすべがなく、暴徒化することも多く国境付近の街の治安は悪くなっていくばかりであった。
神獣のワンは、敵兵ではない難民に魔力をむけることは出来ず、軍の多くが各地で治安維持に赴くしかなかった。
王から軍の全権を任された王太子アーノルドは、弟王子達を集めて会議を開いていた。
「カラハンからの難民を扇動している者がいる」
何故に、と聞く者はいない。
今の状態は神獣を封じられていると同時に、兵力が分散されているからだ。
「それこそ、ウズデロイドの狙うところでしょう」
報告をしている軍幹部も、ウズデロイドの本当の狙いはマルセウスであると確信している。
「ウズデロイドの本隊は、国内に残ったままです。これが我が国に進行してくると考えられます」
アーノルドはこの危機を乗り越え、王位譲渡へと繋げたいが、問題は神獣である。
神獣が永劫に自陣にいることが前提でないと、不安定な王位となる。
デイルは、この機会に名をあげ、王太子交代をうちあげたい。
そのためには、神獣の力が必須だ。
アーノルドやルティンの物になるなら、失くしてしまうほうがいい。
美優はニナとワンを連れて王都で難民達の様子を見に来ていた。
王都にも難民は流入していて、スラムと呼ばれる地域が広がってきていた。
「どうしてスラムを見たいなどと?」
ニナが美優の周りに注意しながら歩く。
美優もニナも、商家のお嬢様という服装で街に出ている。
街に出るのことをルティン達には、止められたが会議に出払い、手薄になったすきに出て来たのだ。
「なんだろう、気になった、からかな」
美優も、無理して来るハッキリした理由はない。
だが、胸騒ぎがするのだ。
ドン!
路地に入ってすぐに、奥から走って来た子供が美優にぶつかって逃げた。
「待ちなさい!」
ニナは美優に確認することなく、すぐに子供の後を追う。
きっと何か美優から盗んでいるはずだ、それは決めつけであるが、ぶつかることが不審なのだ。
美優は子供とニナが消えた路地に向かい歩みを速めた。
ポケットを探ると、ハンカチやメモを入れたポーチがなくなっている。
「ワン、急ごう」
いくら魔術騎士といっても、ニナが心配だ。
路地の先から火花が見えた。
ニナが魔術を使っているのだと分かる。
ワンがニナの前に立ち路地の角を曲がると、ニナが立っていた。
ケガはしていないようだ。
「ミユウ、貴女の気になった、は予知能力ですか?」
ここにいた男達は、ニナの魔術にひるみ逃げ去った後だったが、地面に陣が残されていた。
「これは、描きかけですが転移陣です。
ウズデロイドから直接転移出来る魔力持ちはいないでしょうが、何度か転移をすればここに転移できます」
ニナの指さす先には、ニナも見たことがあるウズデロイドで見た魔法陣が描かれていた。
どこが描きかけなのかは、美優には判断できなかったが、ウズデロイドからマルセウスの王都の街中に兵士を送れるものだというのは分かった。
ニナはすぐに魔術便でルティンに連絡を入れると、デイル、ルティンがすぐにやって来た。
「難民を扇動した目的の一つは、転移陣を描くことだろう」
デイルは、他にもあるはずだ、と一緒に来た騎士達に捜索を指示して、魔法陣を消していた。




