ワンの秘密
魔法陣の処理をしてから、宿の部屋に戻って来たニナにルティンが声をかける。
「ご苦労、これで追手も来まい」
ホント、顔はいいんだよね、この王子達。美優はそれを見ながら胸に手を当てる。
転移した先でも、ルティンは先攻に立ち、圧倒的強さで剣を振るっていた。
女の子だもん、カッコいいと思ってしまうよ。
それでなくとも、最初に会った人間で、助けてくれたイケメンだ。
ルティンがニナに労うのに、気になる自分が情けない。
ルティンもワンのオマケで自分に優しいんだ、それが腹立つんだと分かっている。
「ミユウ?」
ニナが美優の隣に座り、様子がおかしいことに気が付く。
「大丈夫、あれは何だったのかな、と思って」
美優が作り笑いでごまかすのを、ニナは違う方に取ったようだ。
「ミユウには、刺激が強かったのはわかります。
戦争のない国で育ったとお聞きしましたから。戦場では、人の死はとても近いです」
お茶を淹れましょう、とニナが席を立ち、美優は少しほっとする。
ルティンが、好きかなんてわからない。でも目が追ってしまうのだ。こんな自分を知られたくない。
魔獣が出たのは、小さな町だ。宿も高級宿はなく、ベッドと椅子が二つ、衝立とテーブル、タンス。それが部屋の調度品の全てで、5人も入れば部屋はいっぱいである。
美優とニナがベッドに座り、椅子にはルティンとデイル、壁に凭れてワンが立っている。
「ワン」
デイルがワンに顔を向ける。
「どうして、あの施設を知っていた、と聞いても?」
ワンは美優を窺ってから、頷く。
「俺はあそこで生まれた記憶がある」
ピクンとデイルの指が動き、ルティンはワンを凝視している。
美優も、あそこでワンが説明をした時から、予想はしていた。
デイルやルティン、ニナは現在のワンしか知らないから、魔獣というには小さい魔物とワンが結びつかないのだろう。
「では、あそこにいた魔物は、皆ワンのようになるのか!?」
デイルが、信じられないとばかりに声をあらげる。
すぐに部屋で、薄い板にしきられた壁では外まで響いてしまう、と口を押える。
隣は、美優とニナが泊まる部屋なのだが、誰が聞いているかもしれない。
ルティンが扉を開け、外の廊下には誰もいないことを確認する。
「悪い」
落ち着いたデイルが小声で言う。
「いや、それはない。俺は特殊なのだ。特別だというべきか」
壁に凭れたワンは、両手を組み苦笑いを浮かべる。
「あそこでも言ったが、古竜の肉を与えられて生き残るのは僅かだ。
生き残った個体は、身体が大きくなり元の生物とは異なる姿になり、多少の魔力を持っている。
ただ、それだけだ」
「あそこはウズデロイドの私設だな? 転移で行ったから場所は分からないが、ウズデロイド語の書類しかなった。ウズデロイドが魔獣を作り、他国に送り込んでいた? だが、あそこのは魔獣というには小さく、簡単に駆除できそうな弱い魔物だった」
今度は小声でデイルが聞く。
「あそこがウズデロイドかは知らないが、ウズデロイド王に最初にあったのはあの施設だ」
「あー!」
大声を出して、あわてて口を押えるのは美優だ。
「フランシスが川に現れた時、ワンの母親が私なら、父親は誰だろう、って思ったんだった!」
「ご主人!」
ワンがごまかそうとした事を美優が話してしまう。
「ほう」
ワンではなく美優に視線を向けたのはデイルだ。
「どういう意味の母親だ?
あそこの小さな魔物だったワンを神獣にした母親か?」
美優はジリジリとニナににじり寄り、顔を隠す。
「殿下、ミユウが怖がっています」
美優の背中にに腕を回し、ニナが庇う。
「俺が力を得たのは、ご主人の意志ではない。
あの施設で大きな魔力を浴びせられ転送される。それに耐えたものだけが、転移地点に姿を現すことが出来る。
生き延びたものは、もう小さな魔物ではない、魔獣となって暴れるようになる。
ご主人が現れた時の、大きな魔力が俺を今の姿に変えた」
ワンは壁に凭れて微動だにしない。
「どういうことだ?」
ルティンが美優を見る。
「私は、遠い国から来たのじゃない。
違う世界から来たの」
いつまでも隠しておけないし、少しは情報を出した方が、力の源が血だとバレなくてすむ。
「変だと思っていたが、そうだったのか」
ルティンは、美優の言葉に納得したようだ。
「兄上に保護された時の衣類に、学者達が見たことない、調べたいと言っていたが、そういうことか」
デイルも美優の言葉を疑わないが、ニナだけは違う。
「ミユウは、姿も言葉も私達と変わらないではありませんか。異界というのが信じがたく・・」
そんな会話をしながらも、美優はフランシスを思っていた。
魔獣を作って、街の人々に危害を与えるのがフランシスなんて思いたくない。
そんな怖い人に見えなかった、そう思いたくない。
王様なんだ、きっとそうなんだろう。
でも、私には違う、フランシスはフランシスでしかない。
フランシスも私を利用しようとしていると、考えたくない。
座っているベッドで動けば、安いスプリングがギシギシと音をたてる。
美優は、胸からも同じ音がすると感じていた。
ルティンもフランシスも気になる、どうしたらいいのだろう。




