美優の役割
デイルは頭を抱えていた。
ウズデロイト王を誘拐。
国際問題である。
早々に帰したいが、ワンはしばらく様子を見ると言う。
その王様は、美優が調理しているのを見ている。
他国に戦を仕掛け、征服し国土を広げてきた王様だ。血なまぐさい噂ばかり聞く。
美優の調理を木に凭れて見ているフランシスを、デイルはどうしたものか、と見ていた。
もう手は震えなくなった。
だが、皮を剥ぐ時は罪悪感がおこる。
「全部、余すことなくいただくから。命をありがとう」
美優は、ワンが狩ってきたウサギを調理している。
動物を屠ることや処理するなど、考えもしなかった。
だが、美優がマルセウス王国から逃げ出し、街道ではない山道を進むには食堂や宿屋などない。時々町に寄り情報と食材を求めるが、基本は現地で食料を調達して、野営だ。
ニナとデイルが交代で寝ずの番をしていることは知っている。
ワンが結界を張っても、それを止めることはない。
ならばと、美優は調理を申し出たが、パック食材しか知らない美優は悪戦苦闘の連続であった。
食べられる野草も覚えた。
街で買った野菜は大事に皮まで使う。
早く王様を帰さないといけないんだけど、出血していない美優にその力はない。
その王様は、火の番をしながら美優の調理を見ている。
ウサギの肉を刺した串に調味料をまぶし、火の側に突き刺す。
すぐに焼け始め、焦げた香りと滴る油が食欲をそそる香りをたてる。
「いつも、あんな事言っているのか?」
フランシスが美優に、あれは何だ、と聞く。
「食べ物に感謝をしてるの」
火にかけたスープの鍋をかき回しながら、美優は当然でしょ、と言う。
「力の弱い者が、強い者に食べられる、当たり前のことだ」
強者であるフランシスの言葉は、デイルもニナもワンも同意見である。
「そうなんだけど、食べ物は大事にしたいから」
強者は弱者を守らないといけない、とか食品ロスとかいろいろ頭に浮かんだが、違う世界の考え方だし、面倒だから言うのは止めた。
下を向いて鍋をかき混ぜる美優に、フランシスの視線がいたい。
「やっと追い付いた、探したよ」
草を踏みつけて現れたのは、ルティン。
ルティンとフランシスの視線が絡み合う、何者だと探り合う。
「兄上」
デイルがかけた言葉でフランシスは分かったらしい。
「王子が揃うとは無用心だな」
「陛下こそ」
デイルがお互い様だと皮肉る。
驚いたのはルティンだ。
「陛下? どういうことだ?」
デイルがいきさつをルティンに説明する。
美優はおとなしくデイルの話を聞いている。
その姿をフランシスは面白そうに見ている。
その二人を見ているのはワンだ。
ニナは美優の警護であるべく横に控えている。
パチパチ、肉の油を弾いて火の粉が舞う。
「ルティン、デイル、陛下、お肉が焼けましたー」
美優が大声を出すと、場の空気が一瞬に変わる。
「美味そうだな」
寄って来たルティンとは対照に、フランシスは興味があるものの、すぐには手を出さない。
美優に無理やり串を持たされたフランシスは、ゆっくりと口に運ぶ。
戦地でも、こんな質素な食事はしたことはない。
肉を口にして、美味いとフランシスは感じていた。
目の前で処理して、焼きたてを食べるなどなかった。
毒見をするため、料理は冷めてしまっていた。
これぐらいで絆されたりしない。神獣の弱点はあの巫女だと分かったがもう少し調べたい。
自分がいない城では、面白い事になっているだろう、とほくそ笑むフランシス。
「うわぁ、怖い顔しているよ陛下」
目ざとくフランシスの表情を見た美優が遠慮なく言葉にする。
皆が美優の魔力は弱く魔術も使えないと思っていたが、美優を中心に回っていることは分かっていた。




