川遊びは不審者の招待状
きゃー、あはは、若い女性の声が響く川辺。
デイルとワンは木陰に座り、川に背を向けて護衛をしている。
美優とニナは、川で身体を洗うのが遊びになっている。
山道を歩いていると、宿に泊まれることは少なく、野宿がメインとなる。
魔獣に襲われたりはしないが、お風呂には入れない。
「暑い季節でよかった、冬だと川で水浴びなど出来ませんからね。
第一、山道は雪に閉ざされるかも」
バシャン、ニナに水をかけながら美優が、そうなの? と聞いている。
「この辺りは、少しは雪が積もると思います」
浅瀬の川に魚を見つけると、追いかけるのに夢中で、美優はニナの話を聞いていない。
反撃とばかりに、ニナが美優に水をかける。
「きゃー、やったわね!」
楽しそうな女子に反して、デイルはふてくされていた。
「我が国にいれば神獣とあがめられ、不自由ない生活が出来るのに」
ワンに話しかけても、ワンは楽しそうにしている。
「ご主人は、王宮の方が不自由だったようだ。今の方が笑っている」
その意見にはデイルも反対はしない。
しんみりな男性陣に比べ、美優とニナは楽しく水遊びである。
裸の身体で川の中を駆け回る。
「ミユウ、ワンがご主人と呼ばれてますが、どうしてそう呼ばれるのですか?」
ニナは、今なら聞けるとタイミングを見計らって聞いてくる。
うーん、と少し考えて美優が答えたのは、
「ご主人というより、お母さん役かな」
言いながらも、ニナに水をかけるのを止めない美優。
水をかけては、川の中を逃げ回る。
「じゃあ、お父さん役はどなたですか?
我が国の王子なんていかがですか?」
ニナは、うちの王子、イケメンですよ、と勧める。
「えー、ちょっとねー」
そう言っても、お父さん役は、アニメのキャラかな、とか誰だろうと想像する。
だが、間が悪い事に美優は走り回っているうちに、足を滑らせて大きな音を立てて川の中で転んだ。
バッシャーン!!
「きゃあ!」
同時に美優の悲鳴があがり、水の中に血が流れる。
「大丈夫か!!」
木陰から飛び出して、川に駆け込むデイルがドンとぶつかった。
今まで、そこには何もなかったのに。
そこには男が立っていた。
「ぎゃああ! あっち行って!」
ニナが美優を庇うように覆いかぶさる、後ろから美優が身体を隠して悲鳴をあげる。
「隠すほどの身体でもあるまい。もっといい身体を見慣れている」
女性に絶対に言ってはいけない言葉を男が口にする。
その言葉に、転んだ時に川の中の石でザックリ足を切った痛みも裸という羞恥も、美優の中から吹き飛んだ。
ドンッ!
男がデイルごと吹き飛ばされて川辺の木にぶつかった。
男もデイルも、自分が飛ばされたことに驚いている。
「この俺が吹き飛ばされるだと?」
ユラリと男が立ち上がると、その周りに魔力のうずが出来る。
「うるさい!
そんなのどうでもいいから、あっち向いて!」
川の水が塊になって男の上から落ちた。
「ワン、その男達を向こうに連れて行って」
ワンは男二人を引きずって、美優達から遠ざける。
「ご主人でなくとも、女性の裸を見てはならん」
人間でないがワンの意見は正論である。
「もっともだ」
そう言ったのはデイルで、男は不気味な魔力を纏ったままである。
「ミユウ、服を」
ニナが美優に服を手渡し、着るのを手伝っている。
ザックリと切れていた傷口は、いつの間にか塞がり、傷跡も消えている。
ジャブジャブ、川を歩き、服を着た美優が男の前に立つと、男の頬を殴りつけた。
「サイテー!!」
生まれて初めて頬を殴られた男は、茫然と美優を見る。
この女から魔術の行使は見受けられない、さっきのは?
何よりも、どうして自分はここに居るのだ?
さっきまで執務室に居たのだ。
ここはどこだ?
「お前は誰だ?」
そう言う男の名は、フランシス・リー・ウズデロイド。
自分を呼び寄せた魔術の痕跡を探ろうと辺りを見渡すと、魔力の大きな男と女、魔力の巨大な男と、魔力を感じない女。
ギャンギャン煩い魔力のない女を、立ち上がったフランシスが見下ろす。
「俺を殴るとはいい度胸だ」
「の、の、覗きのくせに」
フランシスの威圧に、美優はすでにギブだ。
「ワンーー」
結局、ワンに頼ることになる。




