街に着きました
魔法円もない場所に突然現れた4人に、街は騒然とした。
ワンが抜身の大きな剣を肩にかけたままなのも物騒すぎる。
地方の街である、大きくも小さくもない、力のない貴族の領地かと見受けれた。
周りの視線から逃げるように、美優は3人を人気のない路地に押しやる。
絵体の知れない人間に関わっては大変と、付いてくる者はいない。
怪しげな人物と街の人々の視線があるが、軍服のデイルとニナが騒ぎにならないのは、まだ国内だからなのだろう。
「ワン、ここは?」
「わかりません、ご主人の行きたい所だと思います」
場所なんて考えてなかったな、と思いながら起き上がる美優は、身体の下のデイルを見る。
転移の瞬間、美優に飛びついたデイルは、勢いのまま倒しかけた美優の頭を守ろうと美優の下敷きになったらしい。
「すごいな、こんな転移初めてだ。魔力量の大きさだけではないな。
新しい魔術だ」
美優を支えて立ち上がったデイルがワンを見る。
大バカ野郎、これ私の魔力だからね。ふふん、と心の中では美優がデイルを見下していた。
「殿下、お金ある?」
美優の言葉に、デイルが何を?と表情で答える。
「まず宿を探して、食事もお金がいるわ」
美優の説明に、納得した王子は、ない、と即座に答える。
「我々は、魔獣の討伐中だったのだぞ。部隊本部に置いてある」
もっともである。
「じゃ、ニナもだよね?」
ニナは、はい、と頷く。
頭を押さえた美優に、ワンが美優の顔を覗き込んで心配する。
「大丈夫、お金がないからどうしようかと思ったの」
この中で、王子は金銭感覚がないだろう、ワンはそもそも人間の社会を知らない。
「ニナ、下級貴族の貴女だけよ!他はここでは頼りにならない!」
ガシッとニナの腕を掴む美優。
「美優様、正直すぎます。宿の相場など、下級でも貴族の娘にはわかりませんよ?」
ニナが苦笑いしながら、そうですね、と考える。
「軍服ですから、売るような物ありませんしね」
ニナは、換金してお金を作ればいいと美優に教える。
「ニナ、アレ売れる?」
美優が指差すのは、ワンが担いでいる大剣である。
鞘がないので、抜き身のままだ。
「美優様!あれは神剣です、とんでもない」
空から降りてきた大剣を見たニナにもデイルも、宝物殿に収納したいほど神々しい物なのだ。
「ご主人、コレは魔力が大き過ぎて人間には手に負えないだろう」
「ワン、魔力食べちゃえば?」
美優に言われて、ワンが大剣の刃に手を添える。
剣の姿は何も変わらないが、ワンの舌が口元を舐めるのを見ると終わったのだろう、と推測する。
「ニナ、コレ売れる?」
再度美優が問う。
「武器は武具屋で売れますが、こんな貴重な物を売るなんて。
見事な装飾と彫りが施された美しい剣、初めて見ました。」
ニナがうっとりしているが、美優がアニメから想像して作った剣である。
誉められると、反対の意味で恥ずかしくなる。
「僕が買う!」
デイルが絶対に売らない、と声をあげるが却下される。
「い・ま、お金が必要なの」
はー、と美優は息を吐き、この中で経済観念があるのは私だけかも知れないと思う。
「ニナ、武具屋ってどんなのなの?」
渋るニナに武具屋を探させて、美優は大剣を売り払った。
「これって高いの?安いの?」
物価の基準がわからない美優は、金貨を手にしてホクホクしている。
「剣の価格としては破格の金額です。当然ですが」
ニナが、神剣を売ってしまうなんて、と売ってしまった後も抵抗している。
「庶民なら半年暮らせます。実家のメイドの半年間のお給料です」
「え! そんなに高く売れたの?ビックリ!」
美優の言葉に、ニナは神剣を売る事自体がビックリです、と呟く。
美優がお金を確認している間に。デイルは武具屋の店主を脅していた。
「この剣は、三日間売るな」
街のならず者達を顧客に持つ武具屋だ、店主はデイルの言葉にびくともしない。
デイルの方も真剣である、さらに脅しをかける。
「この剣は2倍の金額で買い取る。念書を交わしてもいい」
「騎士様、いくら第一部隊の軍服を着ていられてもお受けいたしかねます。なら、何故売られるのですか?」
武具屋だけあって、軍服にも詳しい。
店主の言葉に、デイルは指にしている王家の紋章の指輪を見せる。
「偽物ではない、理由は言えないが3日待てば分かる」
それでも信用しない店主にデイルは、3日だ、と繰り返す。
「買い取るのは王家だ。
もしも、偽物を作って用意したなら首がないと思え。」
とうとう店主が根負けして。
「3日だけ、お待ちします」
領主様に連絡すれば、直ぐにでも買ってくれそうなのにと店主は思うが、3日で倍になるなら悪くはない。
本当に王家が絡んでいたとしても、おかしくない程美しい大剣である。
3日待って買われなかったら、そこで領主様に連絡すればいいのだ。
「ところで、店主この街はなんという名だ?」
デイルはその場で手紙を書くと、魔術で王宮に送った。宛先は父親である国王だ。
戦争勃発の連絡に使う暗号を付けての緊急書簡だ、何よりも最優先されるであろう。




