天よりの剣
ワンは美優を襲った魔獣をその爪で切り裂くと、倒れ込む美優を腕に抱き吠えた。
ガアアアアア!
その声は辺りをつんざき、魔獣たちが怯む。
ルティンとデイルもその叫びに、美優が傷ついたのだと分かった。
魔獣達が一斉に引いていくのを確認して、隊の全員が美優の元に駆け寄る。
「ミユウ様! 私がついていながら!」
ニナがワンにくるまれている美優に取りすがるように泣いている。
「痛い、ワン、痛い」
美優は、右手でケガをしている左腕を押さえながら身体を起こすが、傷の方が大きく手では隠しきれず血が流れ落ちる。
痛い、どうしてこんな目に遭うの。
こんな所に来たくなかった、きっと死んだって帰れないんだ。
美優の中に理不尽な怒りが沸きあがる。
あの人達は、ワンしか見ていない。
ワンみたいに魔術を使うことも、強い攻撃も出来ないけど、オマケと言われる筋合いはない!
貴方達なんて、こっちから願い下げよ。
「ワン」
右手を上に挙げると、手のひらから美優の血が滴る。
ニナは美優が血塗られた手を空に向けるのを見ていた。動くことが出来ない、それが正しい。
美優の手の先に、小さな光が現れ、ゆっくりと、それは空から降りて来た。
人の背程ある大剣と分かるのは、ワンの頭上に来た時だ。
ワンは美優の傷の開いた左腕を舐め始めた。
口元は美優の血で赤く染まるが、美優の傷が癒えていく。
その場にいる者達には、ワンが美優の傷を治しているように見えたろうが、ワンは美優の魔力を吸っていたのだ。
ワンの身体が人間の姿へと変わり、ニナに美優を預けると大剣を手に取った。
「すぐに終わらせる」
ワンの人型を初めて見るルティン達は、言葉を失くしている。
人語を有し人の形をする獣、これは獣というのか。
ワンは剣技が出来るわけではなく、人ならば振るうだけでも大変な大剣を凪ぎ払うだけ。
ザン!
強力な魔力の波が、木々も魔物も斬り裂いていく。
ワンの剣が次々と振り下ろされる。
「これが神獣の力」
斬り倒された魔獣達の血が海の様に広がっていく。
むせる血の匂い、一撃でこと切れていく魔物達。
ワンの巨大な魔力から繰り出される魔術に、ルティンもデイルも喜びを隠せない。
ルティンが初めて美優と会った時は、すでに交戦は終わっており、大量の魔獣が焼け焦げた塊となっていた。
今回は、実際のワンの威力を見ているのだ。
ワンに見惚れていて、美優の傷を気に掛ける者はニナ以外いないと思っていた。
ワンに舐められて、傷が治癒されたのを見ているから尚更である。
ニナは傷のなくなった美優の腕を、痛かったでしょう、と撫でている。
「大丈夫よ、ニナ」
そんなニナにデイルが側に近寄ってきて声をかける。
「元気そうだな」
大きな傷を負ったのを心配しているらしい。
ニナで落ち着きかけた気持ちが、ささくれてくる。
ワンを従える人間がいなくなると困るでしょうね、と皮肉を言いたくなる。
ニナの背中越しにワンの姿が見える。
カッコいい。
さすが私の僕、立派になって~と保護者の様に見てしまう。
まさに血肉を与えて育てた獣である、自分の分身のごとくだ。
魔獣を殲滅したワンが大剣を肩に担いで戻ってくる。その足先は美優に向かっている。
言葉は届かないが、美優には分かった。ワンがこのまま移転しようとしていることを。
美優が逃げたいと言った言葉を実行しようとしているのだ。
美優の表情が動いたことにデイルが気づいた。
ほんの僅かな違和感、それが何かは分からないが、デイルは動いた。
ワンが美優の元にもどり手に触れる瞬間、デイルは美優に飛びついた。
まるで最初から誰もいなかったように、美優に触れていた全員が消えた。
美優、ワン、ニナ、デイルの姿が忽然と消えた。




