披露会が始まります
キラキラのドレスに美優はため息が止まらない。
重い、とにかく重いのだ。
僅か2日で、これだけのドレスを用意した国力は凄いと思う。
手編みのレースと聞いたレースの豪華さと、美しさにさすが異世界と喜んだが、見ると着るは大違い。
コルセットをするとウェストが5センチは縮まるが、苦しい。
侍女の手にかかると、美優の胸もサイズがアップする。
寄せて寄せて寄せて、くっきり谷間。
肌も髪も夜会仕様に整えられ、淑女の出来上がりである。
鏡の中の自分に見とれるのは、決して大袈裟ではない。
ありがとう侍女さん!
そして、付け焼き刃で歩き方を習っている。
ドレスで歩くのは難しい、ニナにエスコートされて歩く練習を続けている。
「ミユウ様、そろそろお時間です。お迎えが参ります」
侍女が告げると、もう一度トイレ、とさっきから3回目のトイレに駆け込む。
「美しいなミユウ、見違えた」
そう言って恭しく美優の手を取るのは、迎えにきたルティンである。
王太子は婚約者がいるので、エスコートから外され、ルティンかデイルかでワンも慣れているという事でルティンに決まったようだ。
そのルティンは、王子の正装だ。
今まで魔獣討伐で汚れた軍服しか見てない美優は、思わず見とれてしまう。
ルティンは21歳と聞いた。前の世界の21歳の男の子達に比べ、ルティンは大人だ。
軍で鍛えた体格、魔獣と闘う力、瞬時に必要な判断力。
平和でない、とはこういうことなんだ。
もう、帰れないんだ。
逃げ出す場所もない。ここは違う世界。
泣いてもどうしようもないと、美優は足に力を入れて、横にいるワンを見る。
「ワン行くよ」
「はい、ご主人」
ルティンは美優に笑うような泣くような表情が一瞬現れたのを見過ごさなかった。
「ミユウ?」
美優は返事はせずに、少し微笑んだ。
「用意は出来てます」
広間の扉が開かれ、明るい光が目に入る。
輝く照明に豪華な装飾の壁、たくさんの人々の視線が一斉にそそがれる。
ルティン王子が見慣れない娘をエスコートしていて、足元に仔犬がいるのがわかると、人々が口々に囁く。
あれは誰だ?、なぜ犬が?
「静まれ」
ワンの声が広間に響き、ワンの姿が大きくなる。
それは、さらに大きく、天井ギリギリの大きさになった。
白銀の毛並みの巨大な魔獣。
女性達は悲鳴を上げ、男性は魔術を使おうとする。
それを収めたのは、王である。
「我が国に神獣を迎えたことは、大変喜ばしいことである」
立ち上がった王の声が広間に響く。
「神獣!」
伝承でしか知らない神獣が現れたのだ。驚きと恐れを持って人々がワンを見る。
「争いに来たわけではない」
ワンがクイ、と顎をしゃくれば、夜空が一瞬で明るくなった。
王宮の周りだけが、昼間のごとく陽が注いだ。
想像を絶する魔力の大きさに、広間は喧噪の渦に包まれた。
あがる歓声、国の守り神として神獣が現れた。ここにいる多くの人々がマルセウス王国の勝利を予感した。
だが、そうではない人間もいる。
招待されている他国の外交官や商人達。
本国に連絡を入れるのだろう、広間から飛び出していく配下が見える。さらに情報収集の為に探りを入れて来るだろう。
もしかすると、自国に脅威となる神獣を排除しようとするかもしれない。
皆が、神獣ワンに注目している中、第3王子デイルは美優を見つめていた。
僕のエスコートは断ったのに、ルティン兄上のは受けるのか!
第3王子とバカにしているのか、お前など神獣が気に入ってなければ、何の魅力もない女なのに。