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死女神  作者: かわむら
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長い道のり

志郎は中学へ進学した。

ここでも女の子から(うと)まれている。

小学校の倍くらいの女の子が、志郎を気持ち悪いと嫌っていた。

志郎と関わり合いを持つ女は寿命が縮まるという噂は、寺田香織事件で証明されたのだ。

だが志郎の頭の中は異性の事ではなく、何としてでも

警官になる事しか無かった。

警官になるには、体が丈夫でなければ。

志郎は病弱な体を克服するために、毎日トレーニングを始めるようになった。

毎朝5時に起きてマラソン。

医者には激しい運動を禁止されていたが、マラソンが出来ないようでは逃げる犯人はつかまえられない。

学校の連中に見つからないよう、通学路とは反対方向へ走った。

家まで往復で40分。

最初は死ぬかと思うほどしんどかったが、志郎は気力で毎朝続けた。

母にはバレないように続けたつもりだったが、朝早くからマラソンしてるのを見られ、やめるように言ってきた。

体育の授業をいつも欠席してるのに、長距離マラソンなんかしたら心臓破裂になると思ったからだ。

しかし志郎は母の言う事に逆らい、中学三年間マラソンを続けたのだ。

マラソンだけではない。

体をもっとたくましくしたかった。

志郎はお小遣いでダンベルを買い、毎日練習した。

あらゆるボディー改造の本を買い漁り、実行した。

志郎の体は中学三年生になる頃には、筋肉モリモリの体に変わっていった。

志郎には刑事ドラマを見るのが何より好きだった。

中でもお気に入りは「太陽に吠えろ!」だった。 

毎回、殉職刑事が出る度、志郎は自分の最期を見届けるような思いで見た。

僕も死ぬ時は、殉職して死にたい。

悪を捕まえるためだったら、命は惜しんだりしない。

健康診断の時、驚くべき事に医者にはもう虚弱体質ではない、体育の授業は出るべき、以上なまでに健康体であると言われた。

これには母も喜んでくれた。

息子はもはや、病弱体質では無くなったのだ。

幸運にも逆療法によって弱い体質を克服した志郎は、トレーニングは毎日かかさず続けた。


    ――――――――――――――――――――――――――


それから三年後・・・。

志郎は大学生になっていた。

入学式の最中にも、早く警察官になりたくてウズウズしていた。

警察官採用に関して、あらゆる情報を集めた。

筆記問題、実技試験などの勉強を志郎は暇さえあれば警察官になるための努力を、惜しまなかった。


   ――――――――――――――――――――――


その日は朝から、政治についての授業だった。

志郎はコンビニバイトの夜勤明けで、眠くて眠くて仕方なかった。

段々と、頭が下へ向いていく。

ついに志郎は完全に突っ伏して、寝てしまった。

「おい、坂本!」

残念ながら志郎が寝ているのは、上沢教授にバレてしまった。

「起きろっちゅうとるんじゃ~!」

上沢教授の怒りが、教室に響く。

爆睡している志郎は、起きそうにない。

志郎の隣に座っている女性が、見るにみかねてペンで突き刺した。

「痛え!」

志郎は、ようやく起きた。

志郎は寝ぼけ顔で、まだ状況がつかめていない。

「坂本、だいぶお疲れのようだな。

さっき、わしが言ってた事をもういっぺん言うてみい」

上沢教授の言ってた事なんて、志郎には分かるはずもない。

「仮説を立てる事と、分析する気合いと根性よ」

隣に座っていた女性が、志郎にソッと教えてくれた。

志郎はスラスラと、女性の言った事を教授に伝えた。

「聞いてたのか。

今度は気をつける事だな」

女性の機転で、志郎は難を逃れる事が出来た。

志郎は隣に座っている女性の事が、気になった。

名は何て言うのだろうか?

女性は志郎が、左手でノートに黒板の字を書いているのを見た。

「あんた、左利きなの?」

「違う。右利きだよ」

「だったら何で、左手で書いてるの?」

「俺は右利きとか、左利きとか言うのが嫌いなんだ。

腕は二本しかないんだから、どっちも同じように使えた方が便利だろ?

右手が骨折した時とか、便利じゃねえか。

でもまだ左手じゃ、右手みたいに字が早くキレイに書けやしねえ」

志郎はノートの字を、女性に見せてやった。

小学校低学年の子が、書いたような字である。

「子供が書いたような字ね」

「これから、もっとうまくなるよ」

その時授業修了の、キンコンカンという音が響いた。

生徒たちは立ち上がって、教室からゾロゾロ出ていく。

時計は12時ジャスト。

「ねえ、これから学生食堂へ行かない?

親交を深めたいの」

「うん。君はこの大学へ入って、始めての友達だよ」

   





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