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死女神  作者: かわむら
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第二の人生

即効で市内の病院に担ぎ込まれ、入院となった。

学校からの連絡で、両親が血相を変えて病室へ飛び込んできた。

「志郎!」

父と母がベッドに横たわっている志郎に近寄った。

「志郎、本当に生きているの?何とか言って!」

母が興奮して言った。

「父ちゃん、母ちゃん。僕、あの世を見てきたんだよ。死んだおばあちゃんに助けられたんだ。

今はまだ死ぬ時じゃないって。

死神にも会った。

僕をあの世に引き込むために待ってた。

女だったよ。女なんだけど、蜘蛛が女に化けてたんだ」

医者も両親も、志郎に後遺症が残ったのだと思い、信じようとしなかった。

一人息子が帰ってきたなら、後遺症が残っても構わない。

「志郎、本当に良かった・・・」

母は寝ている志郎を抱きしめた。

9才の志郎は危篤状態から奇跡的に助かり、無事に病院を退院した。

この事は地元のニュースや新聞に取り上げられ、お手柄の担任の教師は人命救助で市長に表彰された。

元気になった志郎は小学校通学に復帰出来たが、クラスの仲間からは一度死んだという理由でゾンビ扱いされ、誰も話しかける友達はいなかった。

死神は確かに「必ず命を奪いにくる」と言った。

しかし時が経つにつれて悪夢のような臨死体験をしたのも薄らいでいき、小学4年生になると完全に忘れてしまった。

その4年生の夏に、父が心臓発作で死んだ。

まだ32才の若さだった。

父の葬儀に集まってくれた同級生は口々に「お前も32才で死ぬよ。父親譲りの心臓発作でな」と言ってくれた。

心配になり母に聞いてみたが、父の父、すなわちお爺さんも心臓の病気で死んだらしい。

別に志郎は今死んでも構わない、と思っていた。

死ねば楽になれる、それが志郎の考えだった。

何も苦労して生きたいとは思わない。

小学校5年生になった時、母が再婚した。

相手の男性、新しい父親には娘が一人いた。

年は志郎と同じ11才だった。

誕生日もわずか3日しか離れていない。

兄妹というよりかは、双子の関係に近い。

しかしその父親は先祖代々からの土地を離れるのを嫌がり、家は別々に住むようになった。

継父の家は岩見町にある。

町内には山陰海岸国立公園の景勝地と名高い浦富海岸がある。

志郎と母の住んでる鳥取市とは、さほど離れていない。

週末は母に連れられて、父と妹の住む岩見町に行く日々が続いた。

腹違いの妹とは、別にケンカする事なく仲のいい状態が続いた。

岩見町に行った時は、必ず浦富海岸で夕陽を眺めてから帰る事にした。

ここからの日本海の眺望は素晴らしく、自然の美しさに見とれるばかりだった。


    ――――――――――――――――――――――――


小学6年生になったが、恋をする対象の女の子は丸っきりいない。

志郎と仲良くなれば、寿命が縮まるという噂が立ち、クラスの女の子からは敬遠されている。

だが6年一組にはたった一人、志郎の一生の仕事を決めてくれた女の子がいた。

その女の子との出会いは、10時20分の休憩時間である。

朝と昼の休み時間と違って、全員が運動場に出される。

クラス単位でドッジボールをやったり、長縄をやったりして体を動かしている。

志郎のクラスは何か集団遊戯をする分けではなく、個人の自由に任されていた。

志郎はジャングルジムに登ろうと、手をかけた。

よじ登ろうとするとジムに陣取っている同じクラスの吉岡拓也が怒鳴り散らしてきた。

「おい、ゾンビ!」

志郎は顔を上げた。

「勝手に使っていいと思ってるのか。使うならショバ代をよこせ」

「何だよ、ショバ代って?」

「お前は世間の常識ってもんを知らねえんだな。使用料金の事だ。金がいるんだよ、カ・ネが」

「いくら出せば登らせてくれるんだよ?」

「大負けに負けて、千円にしといてやる」

「そんなに持ってない」

「それなら降りろ。お前に登る資格はねえ」

吉岡に命令され、志郎は仕方なくジャングルジムから降りて砂場に行った。

砂場には同じクラスの羽野慎二とその仲間が群がっている。

志郎が砂場に一歩足を踏み入れた途端、「おい、ここはお前のくる場所じゃねえ、感染したくねえんだ。どっかよそへ行け」と言われた。

しぶしぶ志郎は砂場から、別の場所に移動した。

地面からタイヤの半分がたくさん出ている場所に行くと、そこに腰を下ろした。

全校生徒が遊んでいるのをボンヤリ見ていると、後ろから声をかけられた。

振り返ると、同級生の林竜三が立っている。

「お前がいると目障りなんだよ。不純物はどっかよそへ消えろ」

さすがに志郎はどこにも行き場所がなくなり、腹が立ってきた。

運動場はいたる所に生徒が散らばっていて、身動き出来ない程ひしめき合っているのだ。

「どこにも行く場所がないんだよ。だからここにいさせてくれ」

「ダメだ」

「このタイヤはお金を出して買ったのか?学校のものだろ?」

「この野郎、俺様に口ごたえする気か!」

気の短い林は志郎に殴りかかろうと、右腕を振り上げた。

握り拳が飛んできて、志郎は目をつぶった。

だが林の鉄拳は、志郎の顔面に当たる前に何者かによって止められた。

こわごわと目を開けると、林の右腕は同じクラスの一人の女の子がつかんでとめている。

その女の子の名前は、寺田香織。

黒ぶちメガネに三つ編みをしている秀才風で、目立つような美少女ではない。

「あんた、やめなよ。弱い者いじめは」

「こんなゾンビ野郎の肩を持つのか、おい?!」

林は志郎をかばう寺田が許せなかった。

かばっても何の得にもならない。

「このひ弱っ子はあたしと同じ塾に行ってるの。そのよしみでね」

「ああ、そうかい。二人で仲良く愛について語り合ってろ」

寺田のいらぬ仲介によって、林は志郎に構うのをやめると他の場所に行ってしまった。

タイヤの場所は、寺田と志郎の二人切りになった。

志郎はどう礼を言おうか分からず、口をモゴモゴさせている。

「あんたも、もっとちゃんとしてくれたらねえ。それでも男?」

寺田は志郎のだらしなさに呆れ果て、その場から去ってしまった。

寺田は志郎の事など何とも思ってなかったが、志郎にとっては初恋の相手となった。

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