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死女神  作者: かわむら
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死神との出会い

志郎は目を開けた。

真っ暗闇で何が何だか分からない。

死んだ事に気づいてもいない志郎は、手探りで暗闇を歩き始めた。 

太陽の光が差し込んで朝になるように、徐々に周りが明るくなり始めた。

やがて完全に周りが見えるようになると、目の前には大きな川が流れていた。

まだ小学生の志郎にはそれが三途の川だというのは知る(よし)も無かった。

何故三途の川と言うのかというと、渡る人の良し悪しで流れが三段階に変わるからだ。

良い行いをした人ほど流れは緩やかで、悪い人ほど流れが急になって渡りづらくなる。

志郎は周りの風景の激変に、唖然(あぜん)とした。

ここはどこだ?

僕はバスに乗っていたのに!?

着ている服も違ってる。

真っ白な着物を着ている。

死者に着せる経帷子である。

額にはハチマキのような物をしている。

額の部分が三角形になっているハチマキだ。

何だよ、これ?!

幽霊みたいな格好になって!

志郎は足元を見た。

ちゃんと足もはある。

風体よりも、一体ここはどこなのだ?!

志郎の立っている場所は(さい)の河原と呼ばれる、石ころだらけの荒涼とした場所だった。

冷静になるんだ。

志郎は自分を落ち着かせようとした。

目が覚めた時、見知らぬ外国にいたら誰だって戸惑うだろう。

しかし、ここは断じて地球上ではない。

志郎は川の向こう岸を見た。

こっちと変わって、対岸はお花畑が地平線上まで広がっている。

誰がどう考えても、向こう岸に渡った方が居心地がいい。

こんな幽霊でも出てきそうな所よりかは花畑がある対岸へ渡った方がマシだと、志郎は川の中へ足をつけた。

冷たい。もう片方の足も水中へつけた。

冷たさは二倍になった。

意外に川底は浅く、子供でも対岸まで歩いていける深さだ。

まだ子供なので悪事はしておらず、川の流れは緩やかだ。

向こう岸から、女の歌声が聞こえてきた。

良かった、誰かいる!

志郎は妖しい女の声に、魂を奪われそうになった。

あんな綺麗な声の持ち主は、きっとものすごく綺麗な女性に違いない。

岸辺の大岩には透けている浴衣を着ている女が座って、歌っていた。

浴衣は胸元がパッカリと開いていて、ほとんど半裸に近い。

歌いながら川の水で髪を研いでいた女は顔を上げ、志郎と目を合わせた。

思った通り、女はうっとりするほどの美貌だ。

「志郎君、こっちよ、早くこっちへきなさい」

女は謎の笑みを浮かべてきた。

「どうして僕の名前を知ってるの?」

「あーら、知ってちゃ悪い?」

「悪くはないけど・・・、僕たちまだ初対面だよ」

「知ってるかどうかを知りたければ、お姉さんの所にきて。そしたら教えてあげる」

喜びながら志郎はグラマー女に近づこうと、急ぎ足で川を渡ろうとした。

爆乳娘に手が届くのも、後少しだ。

その時、後ろの方から亡くなった祖母の声が聞こえてきた。

「志郎!その女に近寄ったらダメ!」

志郎は驚いて振り返った。

元きた岩石だらけの岸辺には、小学一年生の時に他界した祖母が立っているではないか。

「おばあちゃん・・・?やっぱり僕は死んだんだね。

おばあちゃんに会えるって事は」

志郎は自分が死んだ事実を、ようやく認めた。

「志郎、落ち着いてよくお聞き。お前の目の前にいる女は、実は女じゃない。

人間の女に化けている蜘蛛(くも)なんだよ!」

いくら祖母の言葉とはいえ、信じられない。

こんな超美女がクモ女?

「疑うのなら、その女の背中を見てごらん」

祖母の言う通り、志郎は女の後ろ側に回り込んだ。

透け透けの浴衣から、はっきり見て取れた。

女の背中には一面、土蜘蛛の入れ墨が彫られてあったのだ。

急に志郎は女が恐ろしくなり、足を一歩後退させた。

作り笑いを浮かべていた女は笑うのをやめると、岩場から立ち上がった。

「ここまでうちを燃えさせておいて逃げるなんて卑怯よ。あんたを捕まえられたら完全にあんたは死ねたのに。

今の志郎は仮死状態。半分死んで、半分生きてるって感じ。死神のうちとしては、ぜひとも志郎をあの世に迎え入れたい。

あの世は、怖い所なんて先入観は捨てて。

実はとってもいい所。この世にいたのがバカらしくなるほど素晴らしい所。

さあ、うちと一緒に二人であの世に行きましょう、志郎君。ここで逃げるなんて、男らしくないわよ」

女の言葉を無視して志郎は回れ右をすると、水をかき分けて走った。

あの女と一緒にいれば、確実に死んでしまう。

今は生死の境をさ迷っているのだ。 

「おばあちゃん、助けて!」

志郎は祖母まで、全速力で走った。

「待ちやがれ、このくそガキ!」

女の言葉使いが一変して凶暴化したかと思うと、巨大な蜘蛛に変身した。

牛ぐらいの大きさの巨体で川の中に入り、追いかけてきた。

志郎は追いつかれまいと無我夢中で走り、川を渡り切った。

「こっちよ、志郎!」

祖母が手を伸ばして志郎がつかみ、振り返った。

牛ぐらいの巨大蜘蛛は、いつの間にか人間の女の姿に戻っていた。

「覚えていろ、志郎!必ずてめえの命を取りにくるからな!その時を楽しみに待っていろ!」

女は向こう岸に届くよう、大声を出した。

志郎を手に入れられなかった遠吠えにしては、迫力満点だ。

「おばあちゃん、怖いよう!」

志郎は祖母の両腕の中で泣いた。

どうやら死神は、対岸まではこれないらしい。

泣きながら、胸が苦しくなって志郎はゴホンゴホンと咳き込んだ。

ものすごく苦しい。

目を開けると飛び込んできたのは死んだ祖母の顔ではなく、目を丸くして覗き込んでいる担任の顔だった。

担任もいきなり志郎が目を開けたので、ビックリしている。

もうお手上げだと、諦めていた所だった。

志郎の頭の中は、クエスチョンマークの符号で一杯になった。

さっきのは何だったのだ?!

あれこれ考えたが、結論としてはあの世へ行ってきたが、助かってまたこの世に戻ってきたとしか考えられない。

「坂本君、坂本君!大丈夫?!」

担任は尋ねた。

目を開けたのなら、次は意識の有無の確認だ。

「先生・・・、ご心配をおかけしてすみません・・・お陰で助かりました・・・」

しどろもどろで答えながら、志郎の耳には救急車のサイレンが響いてきたのが聞こえた。

のどかな一本道を、救急車がこっちへ向かって爆走している。

担任は志郎の胸に手を当てた。

心臓は再び鼓動している。

「何だよ、助かっちまったのか。お陀仏になりゃいいのによ」

後ろからクラスメイトの一人が言った。

三年四組の生徒全員が、志郎が死んだと思って笑っていたのだ。

志郎は救急車に運び込まれながら、祖母に感謝した。

もし祖母が現れなかったら、死神と名乗る女にあの世に連れて行かれただろう。

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