旅行 Ⅲ
「あっ、母さん。」
「「えっ!?カオルのお母様!?」」
サラと私の声が重なった。サラは目が飛び出しそうなくらい見開いているし多分私もサラと同じような顔になっているだろう。
物凄い美人だったのだ。またサファイア帝国辺りの国とは違った感じの美人。
正直本当にカオルの母親か?と疑ってしまうほどだった。
カオルが不細工と言っているわけではない。カオルの顔は整っている方だ。しかしカオルの母親の顔がそのままカオルに遺伝しているか…と言われればそうではない。
部分的に面影がある所はあるにしろ、カオルではカオルの母親ぐらいまでの美人にはなれていない。
「私の母さんよ。」
「あっ、あんた達がカオルの友達か。カオルの母ナエ、よろしくね。」
「「よろしくお願いします。」」
私もサラもさっきまでリラックスしていたのに急に緊張し、体が固まってぎこちない会釈しかできなかった。
それにしてもやはり喋り方は平民らしいと言うか豪快な母さんって感じがして貴族の貴婦人の中では出会えない感じの人だと感じた。
「さぁさぁ、上がって。ヒスイ国滞在中は家に泊まるんだろ?」
「その予定です。よろしくお願いします。」
「お願いします。」
一応私もサラも貴族令嬢、この身分は属国であるヒスイ国でも通用するのだが別に正式な訪問ではないのでこれはお忍び旅行になる。
建物の一階がお店二階が居住部分になっていた。
「お茶を淹れるから座って。」
居住部分は平民の家らしい造りになっていたが平民の家の中でも随分と大きい。平民に落とされた時も貴族の屋敷に住み込みで働いていたから平民の家に入ったのは初めてだ。
カオルの家は平民の中でも裕福な方だろう。留学費用を捻出できるほどの経済力があるのだから。
「はい、ヒスイ国のお茶緑茶で〜す。」
ナエが淹れたお茶をカオルがお盆に乗せて運んできた。
「緑茶?」
緑茶は薄緑色のお茶だった。紅茶とはまた別のお茶のようだ。
初めてのものでやはり抵抗がある。毒ではないのはわかっているのだがなかなか口に入れる気にはなれない。
サラと顔を見合わせ、一緒のタイミングで飲む。どちらか片方だけが先に飲むのは不公平だとまるで毒を飲むかのような行動を無意識にでも取ってしまったことは反省している。
カオル達には失礼だっただろうから。
慣れない変な味…を覚悟していた緑茶だったが意外と味は美味しい。また紅茶と違った美味しさで美味しく飲めた。
「あっ…美味しい。」
美味しいのなら不味いものを飲むかのように身構えずさっさと飲めば良かったと少しの後悔に襲われた。
「でしょでしょ〜。」
カオルは緑茶を褒められて上機嫌だった。
「本当だわ。美味しい。」
サラも緑茶が美味しく感じたようでカオルは益々ご機嫌になった。
「荷物も置いたし、観光にいきましょ、観光!!」
緑茶を飲み干したサラがもう一度観光に行きたいと言い出した。
「観光するなら月下城がいいよ。中には入れないけど、外から見ても立派だからね。」
ナエは外人に人気の観光名所である月下城を提案した。古代の宮殿などが観光名所になるのはわかるが、まだ人が住んでいるのに観光名所になっているのか。
私なら自分の家に観光しにくる人が来るのはちょっと鬱陶しい。可哀想に…月下城の住人さん、今から観光客がそちらに向かいます。
「いいわね、行こう行こう。」
サラも月下城観光に乗り気だ。たしかにサファイア帝国やその近辺の国ではお目にかかれない造りの建物だ。
さっそく行ってみようとしていた時、すいませーんと一階から客らしき人たちの声が聞こえた。
私達が来ているからと言って営業は中止されていない。
「今行きますー。」
ナエがバタバタと階段を降りていった。
「ちょっとお客さんがひと段落するまで待ってて。」
カオルもそう言ってナエの後に続きバタバタと階段を降りていった。
「ちぇ〜、それまで月下城は御預けか〜。」
サラはテーブルに突っ伏した。私ももう少しここで時間を潰さなければいけないのなら緑茶をおかわりしたいのだが、緑茶を淹れられる人物が二人とも手が離せないので飲めないのだろう。
自分で淹れる手もあったが紅茶と淹れ方は違うだろうから茶葉を無駄にしたく無くてなかなか行動に移せない。適当、適当♪と軽い気持ちでお茶を淹れれるほど私はお茶にこだわりがないわけではない。
というか貴族なら殆どの飲み物が紅茶なのだからそこにこだわりが出てきたとしても何ら不思議ではない。
サラはテーブルに突っ伏した後カオルの家を探険していたが自分の家よりも狭く、部屋数もそんな多くないためすぐに見終わってしまい暇を持て余していた。
「エルリカ、月下城見に行こうよ。」
窓の外を眺めながらサラが言った。
「カオル達を待つでしょ?まだ行けないわよ。」
私達には土地勘がないのだから迷子になる未来は容易く想像できる。
「見てよエルリカ。月下城あんなに大きいのよ。」
サラが指差す先はここからでも月下城が見えた。
「大きいから見失うはずないし、辿ってきた道順を覚えれば迷わないわ。」
椿地区は道が複雑なわけでは無く、整備されている。道順を覚えることはさほど難しいわけではないだろう。
「でも勝手に行っちゃっていいのかしら。」
「見てすぐ帰るし、大丈夫よ。」
サラは自信満々にそう言い切った。
「まぁ…大丈夫よね。」




