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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
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旅行 II

「エルリカ、顔色悪いわよ?」


「もしかしてエルリカも船酔いぃぃぃぃ…ヴォぇぇぇぇ。」


部屋に戻ってきたカオルとサラの言葉で私は自分が今顔色が悪い事に気づいた。

この気持ち悪さが船酔いだったらよかったのに。それではない事はわかっている。

忘れたいのに忘れようとすれば忘れようとするほどアベンチュリン男爵令嬢が海に飛び込んだときの映像が鮮明に頭の中で繰り返される。


「そういえば誰かが海に落ちたらしいわね。」


サラの何気ない一言で、私はアベンチュリン男爵令嬢を思い出し吐き気がした。

あの恐怖に染まった顔、あの小さな悲鳴を上げた声、恐怖一色の表情の中にお前のせいで死ぬんだぞと言わんばかりの少しばかりの憎悪が滲んだ顔。


アベンチュリン男爵令嬢は私にトラウマを植え付けた。


「サラ、エルリカもうすぐヒスイ国に着くからもう少しの辛抱よ。」


カオルがサラと私に水をくれたが、私の場合船酔いじゃないので船から降りたとしても何も変わらないのだ。


でも水を体内に入れた事により少し落ち着いた。でも人が目の前で死んで平常でいられることの方が異常なのではないか。



ヒスイ国の港に着くと私達は船を降りた。この港町はヒスイ国の中で一番外国との貿易が盛んな町らしい。


「その名も貿易都市、月下町!!」


カオルは両手を広げ、息を弾ませながら説明する。


「カオル、凄くテンション高いわね。」


サラがコソッと耳打ちしてきた。お姉さんタイプのカオルがこんなにテンションが高いのは珍しい。


「自分の国を紹介できるのが嬉しいのね。」


ヒスイ国は位置的に敵側に近いことからあまりよく思われておらず属国としての歴史は浅い方だから、いつこちらを裏切るか分からないと思われている。ヒスイ人は場所によっては迫害を受けたりする。


カオルは私達が迫害しないのが嬉しいのだろう。


月下町は町の中心部に月下城という城がありそこがこの町の領主の住む屋敷だそう。


桜地区、梅地区、菊地区、椿地区、藤地区、萩地区、桔梗地区とあり、カオルの家は椿地区にあるのだそう。


「家に行くまで他の地区も通るから観光したらいいわ。」


「わー…ヒスイ国語がががががががががか……。」


慣れない異国語の羅列にサラはちょっと壊れた感じになってしまっていた。


「サラ…大丈夫?」


周りから聞こえてくる異国語にすっかりサラは圧倒されてしまったらしい。


「とりあえず、行くわよ。」


カオルはサラ手を掴んで引っ張った。私もカオルの後に続いた。


町は見たこともない建造物が並び、露店にはヒスイ国ならではであろう珍しい商品が並んでいた。


「わー、見たことないものばかりね。」


サラはきょろきょろしながら食べ物を売っている店の試食巡りをしていた。


「私にとっては当たり前の物でもエルリカ達から見れば珍しいのね。」


「ええ、見たことないものばかりだわ。」


私も気になった物を手に取りながら見て回っていた。サラは食べ物にしか興味がないらしく、ヒスイ国の屋台飯のようなものを大量に買っていた。


「これ美味しいわね…モグモグ……。」


立ち食いなど貴族令嬢であれば完全にアウトだが、今ここにたしなめる人はいない。

サラはうちが貧乏だから護衛などが付いてこないと言っていた。貧乏子爵令嬢ならまだわかるが、一応私は貧乏でもなんでもない侯爵令嬢よね?

護衛が付かないのはおかしくないか。まぁ、ついていない方がこちらとしては楽だ。多分諜報員が付いていくから護衛は付けなかったのだろう。


向こうからすれば私は邪魔者なので旅行先であわよくば死んでほしいのだろう。護衛を付けると体面的に守らないといけなくなるから殺しにくくなる。


「貿易が盛んだからもしかしたら馴染みのあるものも売ってるかもしれないわよ。」


カオルはそう言うが見た限り見たことない珍しい物しかない。もしかしたら珍しい物にしか目が行かず見逃しているだけなのかもしれないが。


「そろそろ、行きましょうか。」


一応一通り見て回ったし、また後々来れるのだからカオルの家に行く事にした。


「サラー、行くわよー!」


「あ、待ってこれも食べてから…モグモグ…。」


今いる地区は桔梗地区で主に商店が密集している地区だそうだ。


萩地区は工業地帯で、藤地区は役所などがある地区でカオルの家がある椿地区は商店と居住区が合わさりあったような地区らしい。


菊地区、梅地区は完全に住宅地で菊地区は高級住宅地だそうだ。


桜地区は夜の店というか大人の店などが密集している地区であまり治安が良くないから近づかないように…とカオルから念押しされた。


「そんな所、行くわけないでしょ〜。」


それを聞いてサラは笑いながら屋台飯を頬張っていたが行くなと言われれば行きたくなっちゃうのか人の性…とも言っていた。


カオルはサラに冗談でも行くなとキツく叱っていた。


あんなに怒っているカオルは初めて見た。


椿地区に入ると商店兼住宅という建物が多くなってきた。


「あっ、あそこが家の呉服屋よ。」


カオルが指差した先はヒスイ国の民族衣装…というかヒスイ国の服を売る店だった。


「わっ…わっ…見たことない服。」


サラが店の中を覗くと何十着ものヒスイ国の服が並べられていた。


さっきの桔梗地区では貿易が盛んなこともあり私達と同じような外国人ばかりが目立ったが居住区に入ってしまうとヒスイ国の現地人ばかりになった。

その服をマジマジと見れる機会なんてそうそう無く、貴重な体験に私もサラも服に魅入っていた。


「着物って言うのよ。その服。」


「キモノ…?」


カオルが服について説明していた時、店の奥から一人の人物が出てきた。


「カオル…帰ってきてたの?」


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