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悪女物語  作者: ひめりんご
悪女物語
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旅行 I

卒業式が終わり、その後の卒業パーティーも終わり春休みが来た。


「うふふ、楽しみだわ。二人に祖国を案内できるなんて。」


カオルが嬉しそうに笑った。今私達は船に乗っている。当初は夏休みだったが私の予定とサラの補修により延期になったヒスイ国旅行だ。


「カオル…ちゃんと通訳お願いするわよ!?私ヒスイ国語駄目なのよ〜。」


サラはヒスイ国語の本と睨めっこしながらカオルに涙目で頼んだ。

学園の授業でヒスイ国語は一応勉強したが、授業だけですぐ言語を取得できるかと言われればそうではなく、サラみたいに全然駄目な人もいる。


私もヒスイ国語は付け焼き刃程度だ。文字は読めるが発音となると怪しいところだ。


「サラ、大丈夫私も苦手よ。」


「うぅ〜学園5位のエルリカがそう言うなら私が取得できなくても大丈夫ね。」


そういう事じゃないんだけどな…。私も苦手だからそんなに思いつめなくても大丈夫、一緒に勉強しよう?という意味だったのだが。


「ぎ…ぎぼぢわるい…。」


さっきまではじめての乗船ではしゃぎまくっていたサラが大人しくなったかと思えば、青い顔をしてふらふらになりながら部屋に戻ってきた。


「船酔いね…。甲板に出て風に当たった方がいいわよ。」


カオルがふらふらで今にも倒れそうなサラを支え甲板に出る為部屋を出る。


「エルリカ、ちょっと甲板に出てくるわ。」


「わかった、いってらっしゃい。」


私はひらひらと手を振る。


「カオル…毎回帰る時こんな船に乗ってるの……うぅ。」


バタンッとドアが閉まり、私も部屋から出た。二人についていくわけではなく、二人とは逆方向に向かった。


私一人で向かっているはずが、私の少し後ろにはぴったりと私をつけてきている人物がいた。

これがアレンの諜報員であることは容易に分かる。私を監視するのが役割のスピネル侯爵がわざわざ監視しにくくなる国外旅行を許可したのはそれほど腕のいい諜報員がいるからだろう。


宰相家エメラルド公爵家とスピネル侯爵家が繋がっている事は知っている。スピネル侯爵家は中立派なのだからそのトップとも言えるエメラルド公爵家と繋がっていない方がおかしい。


わざわざ監視する時期が双方被ったとかなかなか無い偶然だ。


私は船内でも人気がないところまで来ると立ち止まり、振り返った。


「そんなお粗末な尾行で気づかれないと思ったの?」


こんな素人の尾行、同じく素人の私でも簡単に見つけれた。プロの尾行なら素人の私には気付けなかっただろう。


「アベンチュリン男爵令嬢。」


私は尾行している主の名前を呼んだ。彼女は学園に居る時からコソコソ私の視界の隅に入っていた。


「ヒッ…。」


アベンチュリン男爵令嬢は肩を震わせた。まさか本当に自分の尾行がバレていないと思っていたのだろうか。


「貴女に色々聞きたいことがあるのよ〜。」


笑いながら私は彼女に近づく。この場合笑いながら近づく事で相手からすれば恐怖心が上がる。

脅すような形にはなってしまうが、アベンチュリン男爵令嬢から情報を引き出しておきたい。


尋問じゃないよ、楽しい楽しいガールズトークだよ〜。


私が近づいていくとアベンチュリン男爵令嬢はその分後ろに下がる。しかし途中で耐えきれなくなったのか背中を向けて走り出した。


「あっ、待ちなさい!」


尾行する側が尾行対象から逃げるなど前代未聞だ。しかしここは海の真ん中。船から降りる事はできないし次の停泊先までこの船の中を逃げ回るのは実質不可能に近い。

それなのにアベンチュリン男爵令嬢は私から逃げている。


とうとうアベンチュリン男爵令嬢は甲板の端まで追い詰められてしまった。


「ハァ…尾行対象から逃げるなんて任務放棄でしょう。」


「う…あ……。」


絶体絶命のピンチに陥っているアベンチュリン男爵令嬢は震えながら海に飛び込んだ。


「えっ、ちょっと!」


その言葉を言い終わる前にボチャンっと音が聞こえた。

私はすぐ柵から身を乗り出しアベンチュリン男爵令嬢が落ちたと思われる水面を見る。しかしそこには誰もおらず、波があるだけだった。


途中でアベンチュリン男爵令嬢を受け止めれるような突起物も無いし、海に落ちたのが妥当だろう。

アベンチュリン男爵令嬢の服装は男爵令嬢としての装いとしてふさわしいものだった。

上級貴族の令嬢と比べれば質素なものだったがやはり面積の広いドレスが水を含んで重りとなり底に沈んでいくのは容易に想像できる。


たとえ沈まず助かったとしてもこの辺りに泳いで行ける範囲に陸地はない、泳いでいくのは無謀だ。ここで海に飛び込んで情報を抹消出来たとしても生きて助かるのは絶望的だ。

元からバレたら自ら命を断つように命令されていたのだとしたらアベンチュリン男爵令嬢のあの恐怖に歪んだ表情にも納得がいく。


私を恐れていたのではなく、私にバレた事により命を断たなければならなくなった事に恐れていたのだ。


「おい、誰かが海に落ちたぞ!!」


アベンチュリン男爵令嬢が海に落ちた事に気づき人が集まってきた。


私はすぐその場から離れて部屋に戻った。


自分で突き落としてアベンチュリン男爵令嬢を殺したわけでは無い。しかし私が気づいた事によってアベンチュリン男爵令嬢は命を断たなければいけなくなった。


私が手を下したわけでは無いが、間接的に私がアベンチュリン男爵令嬢を殺した事になる。


「わ…私、悪く無いわよね?」


部屋には誰もいない。答えが返ってくる事はない。人が目の前で死んで私は混乱している。

間接的にでもわたしが関与していることがより私を混乱させていた。私は悪くない、と言ってほしい。その答えしか望んでいない。


こんな事で動揺していたら復讐なんて果たせるわけがない。そう自分を叱責するがやはりそれで私は奮い立たなかった。



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