ある男との会話
娘だけは助かると安心してのこの余裕そうな態度なのか。
「死ぬ前に答えろジェームズ・トパーズ。何故お前が自身の妹を殺したのかを。」
それを聞くためだけにジョージはこの殺し屋役を受けたと言っても過言ではない。というか理由らしい理由はそれしかない。
「妹?」
ジェームズは一瞬訳がわからないという顔をしたが、すぐにわかったような顔になった。
「邪魔になったからだ。」
その言葉を言う時ジェームズは苦しそうで今にも泣き出しそうなのを必死に堪えているような声だった。
「嘘だな。どうせ死ぬのだから真実を言ってももう誰も責めない。」
「いいや…あの世で責められるね。いや、地獄かな。」
ジェームズはグビッとグラスに入っていた酒を飲み干す。ヤケ酒のように見えた。
「トパーズ一族は呪われている。誰も呪いからは逃れられない。」
「くだらない。自分の誤ちを呪いのせいにするな。」
ジェームズはまた酒をグラスに注いだ。
「狂人一族なんてあだ名があるだろ。あれは本当だ。徐々に狂っていき正常な判断ができなくなっていく。個人差があるがな。呪いがいい方向に転んだことなど一度もない。」
『俺たちは呪われているんだジェームズ。やがて誰もが狂う。お前も、お前の子供も、その孫も。一族が絶えるまで続く。』
ジェームズの頭の中には父アンドリューから言われたことが反響していた。
「トパーズ一族は禁忌とされていた魔神崇拝をした一族だ。リューエル側に寝返り今や公爵という地位についているが魔神から恨まれ呪われた。」
もうそれは何代も…何十代も前の話なのだが一族が犯した罪は消えることはなく、呪いという形で罪の証を刻み付けられていた。
トパーズ一族の血を引くものが凶器に陥らずに天命を全うできたことは一度としてない。
「あの日俺が暗殺者を装い、妹を逃した。」
狂気に陥った父に殺されないようにするため。父の狂気は皇帝の座を欲したこと。異様に男の子に執着したこと。その矛先がマーガレットに向かなければよかった。しかし、父の狂気の矛先はマーガレットに向いてしまった。
ジェームズの狂気は逃してやったはずの妹を殺してしまったこと。マーガレットだけが狂気に飲み込まれている様子がなかった。もしかしたら一族の呪いを解く唯一の希望になるかもしれなかったのに。
ジェームズの狂気は希望を自分の手で絶やしてしまったこと。
「しかし殺してしまった。自分が別の自分に支配されてしまったような感覚だった。」
ジェームズは静かに語る。
「それで俺が納得するはずないだろう。」
ジョージは抑えていた怒りを剣に乗せジェームズに向ける。ベロニカを殺したのは一族の呪いのせいなんだ!で納得すると思っていたのか。もう少しマシな嘘を考えろ…とジョージは思った。
たとえ本当に呪いのせいで狂気に陥ったのだとしてもそんなふざけた理由でベロニカは殺されたのか。
許さない。ジョージの中でその感情が膨れ上がった。元々許す気など毛頭なかったが。
その感情が爆発してしまう前に目の前にいる胸糞悪い男を始末したかった。一番残虐な方法で…。
ベロニカは身体中を切り裂かれ、冷たい道端に放置されていた。その表情から最後がどれだけ苦痛なものだったかが伝わってくる。
この男にはそれと同等の…いやそれ以上の苦しみを与えないと気が済まない。誰が苦しまずに殺すものか。
生きている最後の瞬間まで痛みが残るような残虐な方法。
「随分と酒を飲むんだな。」
もうすでに五杯目に到達しようとしているジェームズを睨みながらジョージは言った。大方、酒に酔って死ぬ時の痛みを緩和させようとしているのだろう。
「最後の酒なんだ。少しくらいいいだろう?」
そう言ってジェームズは飲む手を止めなかった。ジェームズは酒が回ってきたようで椅子から立ち上がろうとしたがフラフラになりまた椅子に座った。
ジェームズが飲んだ酒はなかなかアルコール度数が高いものらしい。
やはり余裕そうに見えてもこの男は死が怖いらしい。怖くない方が少ないので死が怖いという感情は普通なのだろう。
ジョージは懐から一本の注射器を取り出した。その中に入っているのはジョージも分からない謎の液体。レヴィの話によれば、拷問などでよく使われる薬で意識を失わないようにさせるものだそうだ。
これで痛みが最後まで感じさせられる。
酔って抵抗できそうにないジェームズに打つのは簡単だった。本人は何をされたのかもわかっていない様子だ。
「苦しんでくれ、ジェームズ・トパーズ。」
苦しまずに逝かせてやるとかではなく、せいぜい苦しんで欲しい。ジョージはすぐに首は切らずベロニカの殺害方法と同じように身体中を切り裂く事にした。
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「きゃー!こっち向いてーー!!」
「ルイス殿下ーー!」
「アレン様ーー!」
生徒会室の周りを追っかけ令嬢達が取り囲んでいる。その様子を遠目にエルリカは眺めていた。もう少しで二人が卒業するとあって白熱の戦いだよ。
「嫌われている…という自覚がないのかしら。」
隣でカオルがボソリと呟いた。たしかに最初の方はルイス達も愛想良くやんわりとかわしていたのだが今は普通に無視している。
そこがクールでかっこいいとポジティブ変換されているのだろうが、冷静に遠目で眺めると彼女達がいかに非常識な行動をしているかわかる。
「ルイス殿下はともかく、アレン公子は婚約者が居ないからチャンスだとでも思っているのでしょう。」
サラも吐き捨てるように言った。サラも二人のことはかっこいいと思っており追っかけ令嬢の気持ちもわからなくはないが幼い頃に家格の差を思い知らされ彼女達のように妻になろうとは思っていないそうだ。
カオルもサラ同様二人をかっこいいとは思っているが、こちらに留学はできても永住する気はないので妻の座を狙うような事はまずしないそうだ。
私があのまま我儘公爵令嬢だったら…あの追っかけ令嬢達の中に混ざっているのかと思うとちょっと身震いした。だって少なくともここに二人、あの令嬢達を軽蔑している人がいるのだから。




