皇帝になる男
2年前、母が死んだ。殺されたのだ。
その時ルイスは母の側にはおらず、訃報を聞き駆けつけるとそこには母の死体があった。
皇妃が死んだと言うのに母の元に集まったのはごく一部の召使だけだった。
(陛下は!?第二皇妃が死んだのに。)
妻の死に一番その場にいなければいけない人物がそこにはいなかった。皇帝は皇后の元へと行っていた。
皇后も母と同じ日に死んでいた。
寵愛を受けていた皇后の元へと皇帝が行く事は不思議ではなかった。ルイスもアリスが死ぬようなことがあればそうするだろう。
しかし母の所には一度も皇帝はこなかった。別に母を愛せと言っている訳ではない。自分から妃にしたのだからせめて最後に会いにくるべきだとは思った。
母の最後は寂しいものだった。
母を可哀想だと思えた。父に振り回された人生だった。皇室に嫁がなければ今もまだ生きていて白髪だらけになるまで生きれたのかもしれないと思うと一瞬にして母の人生に何の意味も見出せなくなっていた。
せめてもの意味は自分を産んでくれたことだろうか。しかしその子供を産むという事も愛する為じゃない。自分の保身のためだった。
産んだらすぐに子供に興味をなくしていた。さっさと乳母に預けて、10歳まで子供と同じ宮に居るなんて耐えられないと自身が持っている離宮に追いやった。
しかし子供が神童やら天才だと騒ぎ出されるとすぐ自分の宮に呼び戻した身勝手な女。それが母親。
母が死んだ事に悲しみは無かった。ただ同じく母を亡くした皇后の実子の姉は悲しそうだった。姉は愛されていた。
姉の勘違いは僕も母親に愛されていて、母を殺した犯人を恨んでいると思い込んだ事だ。
第三皇妃を殺すため第三皇妃を恨んでいる第一皇女と第三皇女を味方につけ、復讐を果たした。母の仇を討てたことよりも姉が手を汚してしまったことの方が衝撃だった。
自分の大事なアリスには殺される事も誰かを殺す事もして欲しくない。
だから断罪の場にダイヤモンド公爵派閥の者は呼ばないよう手を回した。純粋な彼女が汚れてしまわないように。守りたかった。
彼女には汚れを知らない綺麗な環境で一生を終えて欲しい。自分の願望だった。その環境を守る事ならなんでもできるから。
その環境がもうとっくの昔に壊れている事をまだアリス以外誰も知らない。
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「…………ですので、ダイヤモンド公爵令嬢とスピネル侯爵令嬢からキャラクターの着想は得ましたが内容はフィクションであり事実ではありません。」
ダイヤモンド公爵邸に集められた大勢の記者達。記者達の注目を集めているのはアリス・ダイヤモンドでもエルリカ・スピネルでもない。
ゾーィ・フィクション…もといシャルロッテ・ツリーアゲートは深々と頭を下げた。それは土下座のようでもあった。
記者達はその一語一句間違えないようにメモ帳にペンを走らせていた。
ゾーィ・フィクションが報道陣の前に姿を現した事も衝撃だったがその正体がシャルロッテ・ツリーアゲートであった事の方が衝撃だったようだ。
「先日発表した新作の販売を自粛させていただきます。」
そう言ってもう一度シャルロッテは地に頭をつけた。これはシャルロッテの謝罪会見のようなものだ。
作者本人から否定されたら噂は沈静化されるだろう。急激に…とはいかないが。
「これは…スクープだ。」
記者達は会見が終わるとすぐ記事を作る為に帰っていった。一人残されたシャルロッテはガックリとその場に座り込んだ。
「はぁ。終わった。」
謝罪会見が終わったのもあるがシャルロッテの小説家人生も同時に終わった。こんな事態を引き起こした小説家の小説を誰が買うのだろうか。
その時ぽんっと肩に軽い衝撃が走った。アリスに肩を叩かれていたようだった。
「今度は私達をモデルにしないで別の物語を書いたらいいわよ。小説家を辞めた訳じゃないでしょ?」
心を読まれたかのような適切なアドバイスにシャルロッテは驚いた。販売を自粛したのは先日発表した新作だけでそのほかの作品は普通に出回っている。一切の収入が絶たれる訳ではない事に気づいた。
「次からは気をつけて小説を書きます。」
シャルロッテはまた深々と頭を下げた。そして販売自粛になった新作『二人の姫と愛の華』はもう少し名前を変えてリメイク版を作ろうと考えるようになった。
「これで噂は沈静化するでしょうね。」
「本当、骨が折れたわ。それはそうとエルリカ、すごい情報網を持っているのね。」
アリスとエルリカはお互いの苦労を労いあっているとそんな話題になった。アリスが言っているのはどうしてゾーィ・フィクションがシャルロッテ・ツリーアゲートだと分かったのか。その情報源を聞き出したいのだろう。
「情報網なんて言えるものはないわ。」
ガブリエルが集めてくれた情報なのだがガブリエルの名前を出すわけにはいかない。ここは否定も肯定もせず流してしまうのが一番。
なんやかんやアレンに目をつけられているし。
「これで晴れて謹慎終了ね。」
「私、謹慎するようなことしてないけどね?」




